ここに2通の文書がある。4月から5月にかけて東芝と子会社・東芝テックの調達部門が取引先に対して送った「ご依頼」(掲載写真参照)である。支払期日の繰り延べを決定したと一方的に通告するという内容だ。
国内の取引先に対しては一律、検収の翌月末起算で180日のサイト(手形が決済されるまでの期間)に切り替えるというから、取引先側からみれば実質的には210日経たないと現金にならない。会社員が働いてから7カ月以上経たないと給料が支払われないようなもので、取引先にとって決してありがたい話ではない。ちなみに、こうしたサイトは多くの商取引につきもので、東芝だけの特殊なものではないが、その長さや恣意的に取り決めを変更することは問題といえる。
文章は依頼の体裁をとってはいるが、「原価低減へのご協力は勿論の事、サイト延長対応につきましても、お取引継続・拡大の『重要並列案件』であることを再認識いただき」などと、取引先に選択の余地はない強制的なものであることをほのめかす文面になっている。当然ながら、取引先からは反発の声が上がった。
ところがこの「支払い期日の繰り延べ要請」は、その後白紙撤回されている。不適切会計問題の渦中にある東芝は、決算や第三者委員会の調査報告書発表が迫っているためメディアに対するコメントを控えているが、白紙撤回の理由は容易に推測できる。支払期日を操作してコストとして計上する決算期を来期にずれ込ませば、不適切会計とみなされる恐れがあるからだろう。
会社ぐるみの犯行か
例えば2011年に発覚し経営陣の退任に発展したオリンパスの損失隠し事件は、一部の役員とその部下が起こしたものだった。罪に問われた旧経営陣に対する判決で、裁判所は「組織的犯行」と断じたが、「会社ぐるみの犯行」とまでは言い切れないと判断したのはそのためだ。
しかし、今回の東芝の不適切会計の場合、前述したようなかたちで調達部門が関わっていた可能性が濃厚で、会計に関わる問題ゆえに経理部門もこれを認識していたに違いない。しかも事業部門では半導体やパソコン、インフラ関連、テレビなど広範囲に及び、それぞれの部門ごとに現場から上がってくる数字を決済する立場の幹部もいるため、「会社ぐるみ」と言われても反論のしようがないのではないか。
取引先へのこうした要請は初めてではなく、「東芝ではこれまでも年末が近くなると、同様の支払期日の繰り延べを取引先へ依頼していたことがしばしばある。取引先に負担を求めるのが、半ば当たり前になっていたのではないか」(信用調査会社関係者)との指摘もある。