「同社は“一流ホテルチェーン”と報じられていますが、ランク的には二流です。しかし、二流が悪いというのではありません。阪急グループ創業者である小林一三は、庶民を相手に低価格で良質な商売を次々に立ち上げ、企業集団を育てた偉大な経営者です。宝塚歌劇のチケットは若い女性が購入できる金額だからこそ、これだけ定着したのですし、阪急百貨店だって庶民派百貨店です」
この経済人は若い頃、阪急百貨店内のレストランをしばしば利用したといい、当時の接客サービスの良さをこう振り返る
「昭和40年前後は仲間とよく阪急百貨店で昼食を食べましたが、当時は金がなかったから、注文するのはいつもライスだけ(笑)。しかし店員は嫌な顔ひとつしないで、福神漬けを添えて出してくれました。他の店ではどこでも嫌な顔をされたので、金のない連中は阪急のレストランにライスを食べに通ったものです」
阪急阪神ホテルズの食品偽装問題の根本原因は明らかになっていないが、この種の問題は食材仕入業者と飲食店側の不透明な関係に起因する例が少なくない。だが、この経済人は「偽装した食材ごとに原因究明をしたところで、本質的な解決にはなりません」と指摘する。
「問題の本質は、かつての“庶民派”精神を忘れて高級な食材を使うような路線へ転換し、つまらない見栄を張ったことです。そうした土壌ができれば、料理人が食材をごまかしたり、仕入業者との間に不透明な部分が生まれたり、いろいろと起きるものですよ」
●高級路線があだに
関西をメインに展開するホテルとしては、高級ホテルとして知られる「ザ・リッツ・カールトン大阪」の食材偽装問題も発覚した。同ホテルは阪神電気鉄道の子会社である阪神ホテルシステムズが経営し、運営をザ・リッツ・カールトン・ホテル・カンパニーL.L.C.に委託しているが、阪急阪神ホテルズ同様に “庶民派”路線だった阪神ホテルシステムズが高級ホテルの経営に乗り出したこと自体に、そもそもの誤りがあったと指摘する声もある。
「なぜ阪神がリッツ・カールトンのような高級ブランドに手を出す必要があるのでしょうか? 役割をはき違えています。低価格の商売で庶民に尽くしてこその阪神です。富裕層を取り込んでイメージアップを図ろうとしたのでしょうが、それは阪神がやるべきことではありません。二流ブランドは二流ブランドなりの商売を誠実にやるべきです」(前出と別の大阪経済人)
ホテルレストランの食材以外の領域でも、ここ最近、立て続けに偽装問題が発覚している。例えば物流業界では、小倉昌男氏亡きヤマト運輸はクール便を常温で取り扱っていたことが10月に発覚したが、同社関係者は「もし小倉氏が健在なら、経営幹部数十人のクビが飛ぶだろう」と語る。また、明治14年に設立された慈恵医科大学は、建学の精神に「厳密な医学に裏打ちされた医術と、あたたかい心をもった医師を育てること」「医学的力量のみならず、人間的力量をも兼備した医師を養成すること」と掲げているが、ノバルティス・ファーマの血圧降下剤開発で論文データ偽装に協力していたことが発覚した。
偽装事件が多発する要因の一つとして、創業精神の忘却もあるのかもしれない。
(文=編集部)