ドワンゴは8日に突如、運営する動画投稿サイト「ニコニコ」で一部Mastercard(マスターカード)による有料サービスの決済を一時停止すると発表した。プレミアム会員でマスターカードを利用して料金を支払っていたユーザは支払い方法を変更する必要に迫られたが、利用停止の理由が不明のままであり、外資系クレジットカードを利用するリスクも指摘され始めている。そんな折、11日にJCBのカードで決済ができなくなる障害が発生したが、もし仮に日本企業であるJCBがなくなれば、国内で利用できるメジャーなカードは外資系のマスターやVisa、アメリカン・エキスプレスのみとなり、今回の「ニコニコ」の例のように突如利用不可となる恐れもあるため、SNS上では「日本の消費者は国益のために国産ブランドのJCBを使って支えるべき」との意見も出るなど、議論を呼んでいる。
「ニコニコ」によるマスターカード利用停止をめぐっては、ある子猫の動画が原因ではないかと取り沙汰されている。9年前の2014年9月に投稿されたもので、子猫の体を洗うというなにげない内容だが、動画のタイトルがマスターカードから問題視されたとされ、当該動画の投稿主は10月7日に「ニコニコ」側から送られてきた以下のメッセージの内容を、自身のユーザページ上で公開している。
<クレジットカードブランド(マスターカード社)から非公開要請があった為、下記の対応を取らせていただきました><クレジットカードブランド側の判断で、ニコニコ全体でのクレジットカード利用を制限される場合がある為、本件対応に至っている>
<当社としてもクレジットカードブランドが指摘する内容が正確なものであるとは疑わしい為、クレジットカードブランドに対し、事実確認や、改めての内容精査要請を行わせていただきます。その上で、クレジットカードブランドから対応撤回の要請があった場合には、改めてご連絡の上で、動画を復旧させていただきます>
<動画の復旧可否についてはクレジットカードブランド側の判断になる為、当社から動画復旧や回答できる期日をお約束できるものではないこと、予めご承知おきいただければ幸いです>
これを受け、SNS上では
<マスターカードのやってる事は完全な越権行為>
<Masterのやってることは会社規模を利用した検閲の強制>
<コンテンツ内容に口出ししてくる事から、今後どんどん使えるサービスが少なくなる>
などさまざまな見解が飛び交っている。
そこで見直される存在になるはずのライバル、JCBだが、11日にJCB系の日本カードネットワークが運営する決済ネットワーク「CARDNET」で障害が発生。JCBや他社のカードに加え、JR駅の券売機や「みどりの窓口」でのカード決済による新幹線の切符購入や、「モバイルSuica」へのチャージなどができなくなり、コンビニエンスストアのセブン-イレブン、ファミリーマート、ローソンやイオンでも一部カードが使えなくなる事象が発生した。それでも、SNS上では
<JCBは大事にしたほうがいい。Visaやmastercardへの対抗だけじゃない>
<競争のあるところ良きサービスあり。決済情報までをも米国に握られることの恐ろしさ>
<昨日のマスターの理不尽な利用制限に対して対抗出来る国産の決済手段があるのは強み>
<Amazonもアメリカみたいに独占市場化したら値上げが待っている>
といった「JCB保護論」が浮上している。
カード市場をめぐる環境の変化
「国内ではマスターカードのシェアは低く、日本の消費者がカードをつくる際の選択肢としては事実上『JCBかVisaか』の二択か、もしくは両方持ちということになる。よく『国内で利用するなら加盟店が多いJCBがいい』といわれるが、カード自体が使えないという店は少なくないが、『JCBは使えるけどVisaは使えない』という店に当たることはあまりない。その意味ではJCBかVisaかどちらかを持っていれば不自由しないといえるが、ポイントサービスを積極活用する人はJCBのほうが向いているだろう。
現状、国内では決済シェアでみればVisaが約5割を占めており、JCBは約3割ほどで差は大きい。それでもJCBはVisaの強力な競合相手といえ、クレカ市場におけるVisaの独占を防ぐ上で重要な存在であることは間違いない。あくまで仮の話として、もしJCBがなくなればVisaのシェアが上がり市場支配力が高まるので、年会費や店舗など事業者が支払う手数料のアップ、ポイント還元率の低下などによって日本の消費者・事業者が不利益を被る可能性はある」(金融業界関係者)
また、カード市場を取り巻く変化について別の金融業界関係者はいう。
「PayPayや楽天ペイといった決済サービスの普及により店頭でクレカを使用する機会は減りつつあるが、決済サービス利用時の支払い手段としてクレカを選ぶユーザは多く、クレカがないと生活上不便が生じるため一人1枚はクレカを持っているというのが現状。ただ、すでに若者層の間では『クレカをつくるのが面倒』という理由や保有のリスクなどからクレカを持たない人も増えており、店舗での支払いで主流になりつつあるペイ系ではチャージや銀行口座からの引き落としなどクレカ以外での支払いも可能なこともあり、長期的にみればクレカ市場全体がシュリンクしていく可能性もある。利用者が減れば、発行会社側は採算が取れないとして年会費や手数料を上げたり、撤退する企業が増えて寡占化が進み、生き残った企業が各種手数料を引き上げるというシナリオも考えられる」
(文=Business Journal編集部)