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長野市が市内イオンモール出店に反対→隣の市に出店され危機感表明「客流れる」

文=Business Journal編集部、協力=西川立一/流通ジャーナリスト
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「(仮称)イオンモール須坂」の外観イメージ(イオンモールのHPより)

 過去にイオンの大型商業施設の市内への出店に反対し実現させなかった長野県長野市が、隣接する須坂市にイオンモール(「(仮称)イオンモール須坂」)が開業することに危機感を募らせている。長野市や長野商工会議所は反対する理由として地元の中小・零細小売店が減少して買い物難民が増えると主張しているが、大型商業施設が出店することで周辺地域にそのような悪影響がおよぶことはあるのか。また、小売り企業が地元の反対を受けて大型商業施設の開業計画を取りやめるケースはよくあることなのか。専門家の見解を交え追ってみたい。

 イオンモールは8月、須坂市の上信越道・須坂長野東インター周辺の開発エリアに2025年秋に新店舗を開業させると発表した。敷地面積は約16万7000平方メートル、3階建て(一部4階建て)で約3700台を収容する駐車場を擁する大規模な商業施設だ。すでにイオンモールは長野県内の佐久平、松本に計2施設を出店しているが、新たなイオンモール須坂に大きく反発しているのが隣接する長野市だ。

 イオンモール須坂は長野市中心部から約8kmの場所に位置するが、出店計画が明らかになった15年、長野商工会議所や長野市商工会は、市に出店計画撤回を働きかけるよう求める要望書を提出。その理由として、長野市内の消費者がイオンモールに流れる点や、地元の中小・零細小売店が減少する点、パートやアルバイトの雇用のみが増えるだけで定住人口は増加しない点などをあげた。結局、計画は覆らずイオンモールは須坂市に出店することが決定したが、長野市の荻原健司市長は今年4月の定例記者会見で、「(同市の事業者が悪影響を受けないよう)早急に対策に取り組んでいく」と語り、市内の店舗の紹介などを行い、イオンモール須坂の来店客が長野市内を回遊する施策に取り組むとした。また、9月には長野商工会議所の水野雅義会頭が、イオンモール豊川(愛知県豊川市)を視察した感想として「周辺業者では人手不足や売上の減少が起きている」と発言。須坂市を訪れた人が長野市にも流入するための対策の重要性を訴えた。

イオンモール開業を地域の活性化につなげるという発想

 長野市がイオンモール開業に反対するのはこれが初めてではない。06年に出店計画が明らかになった際、同市が計画に同意しない方針を通知。その理由として、地域経済に与えるマイナスの影響が広範囲に及ぶ点や、出店予定地域は開発を抑制する市街化調整地域を含むため農業振興と環境保全をはかる地域とする市の計画と合致しない点などを指摘した(06年2月12日付「しんぶん赤旗」より)。市と歩調を合わせるかたちで長野商店会連合会と商工会議所も反対を表明し、イオンは開業を断念した。

「商工会議所や商工会は地元企業で構成されるので、大規模なショッピングセンターができると客を取られるのではないかという懸念を抱くのは仕方ないし、商工会議所の強い反対の意向を市は無下にはできない。ただ、条件反射的にやみくもに反対を唱えるだけでなく、きちんとイオンモール側との対話を行っていたのかが気になる。大規模な商業施設ができれば交通整理をはじめさまざまな面で事業者は自治体の協力を得る必要があるため、自治体の理解を得るための対話や関係構築にはかなり神経を使うもの。近年では大規模商業施設は地元の地域社会との共生を重視しており、その視点でさまざまな施設の設計やイベントの企画に取り組んでいる。そのため、市や地元経済界もイオンモール開業を地域の活性化につなげようという発想を持ってもいい。

 長野市は隣の市に開業されてしまうという展開までは予想していなかっただろうが、決まった以上はいくら反発してもどうすることもできず、結果的に消費者の流出で市の事業者が悪影響を受ければ元も子もない。市と商工会議所はイオンモール須坂の客が長野市を回遊する仕組みをつくると言っているが、だったら最初から長野市に集客力の強いイオンモールを開業させて他の市からも人を流入させ、その人たちを市内に回遊させて市の経済活性化につなげる施策を考えたほうがよかったのではないか。市側の振る舞いはやや近視眼的だった印象を受ける」(流通業界関係者)

地域住民へのメリットとデメリット

 大規模な商業施設が、地元の反対を受けて開業をとりやめるケースはよくあるものなのか。また、大規模な商業施設の出店により、周辺エリアの商店街や中小小売店などが減り住民が不利益を被るということは実際にあるものなのか。流通ジャーナリストの西川立一氏はいう。

「1970年代からスーパーを中心に大型店の出店が相次ぎ、商店街や中小商店は客を奪われるとして各地で反対運動が勃発した。そこで、74年に大店法が施行され、大型店の出店は商業関係者など地域との調整が必要となり、地元の反対で出店を断念するケースも見られた。その後、商店の後継者難の問題などもあり商店街の衰退も進み、地元の商業者のパワーはダウンし反対運動は沈静化の方向に向かった。2000年には大店法に代わる大店立地法が施行され、出店にともなう騒音や交通渋滞などが発生することもあり、地域住民の生活環境を守ることに重点が置かれた。

 郊外での大型商業施設の出店は確実に中心市街地の商業集積の減退を招き、地域経済に影響を及ぼすが、地方は車社会なので地域住民にとっては来店の利便性が向上し、商品やサービスなど新たな魅力を享受でき、歓迎する向きが多い。ただ、高齢者など車を持たない住民にとっては不便になることもあり、なじみの商店がこれを機会に閉店したり、出店により付近の道路が渋滞するなどのデメリットも生じる。

 一方で、大型商業施設が出店することで地域の活性化や大量の雇用の発生、広域からの集客に伴う周辺店舗への来店などが期待できるといったメリットもある。デベロッパーは地域の店舗のテナント出店にも力を入れており、地元の商業者にとっては事業を拡大する機会にもなる。近年では出店に際して地元自治体との事前協議も行われ、商業施設と連携してさまざまな取り組みも行われており、コミュニティ機能の役割を高め、地域住民が交流する場も設けられ、地域と共生する施設づくりに力を入れている」

 また、流通業界関係者はいう。

「イオンモール須坂が開業する須坂長野東インターチェンジ周辺エリアには、『アークランズ』の店舗や『ホテルルートイン』といった商業施設のほか、メーカーの製造拠点や物流施設なども集積する。須坂市と地元経済界、そしてイオンモールをはじめとする事業者が密に連携して開発に取り組んでいる様子がうかがえる」

(文=Business Journal編集部、協力=西川立一/流通ジャーナリスト)

西川立一/流通ジャーナリスト、マーケティングプランナー、ラディック代表取締役

西川立一/流通ジャーナリスト、マーケティングプランナー、ラディック代表取締役

流通ジャーナリスト。マーケティングプランナー。慶応義塾大学卒業。大手スーパー西友に勤務後、独立し、販促、広報、マーケティング業務を手掛ける。流通専門紙誌やビジネス誌に執筆。流通・サービスを中心に、取材、講演活動を続け、テレビ、ラジオのニュースや情報番組に解説者として出演している。

Twitter:@nishikawaryu

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