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『シン・ゴジラ』でも庵野秀明の原案を東宝が繰り返し改変…アニメは原作尊重

文=Business Journal編集部、協力=入江泰浩/日本アニメーター・演出協会代表理事
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東宝の公式サイトより
東宝の公式サイトより

 昨年10月期の連続テレビドラマ『セクシー田中さん』(日本テレビ系)で、原作者・芦原妃名子さんの意向に反し何度もプロットや脚本が改変されていたとされる問題を受け、原作を映像化する過程における制作サイドの進め方や脚本づくりの実態がクローズアップされている。そんななか、大ヒット映画『シン・ゴジラ』(2016年公開)で当初、原案者である庵野秀明氏が作成したプロットについて、製作元の東宝が何度も庵野氏の意向に反するかたちで改変した脚本をつくり、庵野氏は<ヒューマンドラマ重視の路線で行くのなら(略)ここで降ります>(『ジ・アート・オブ シン・ゴジラ』(グラウンドワークス)より)と降板する旨を申し出ていたことが、改めて注目されている。庵野氏は当初から登場人物の恋愛や家族、友情といったドラマ性を排除すると伝えていたものの、東宝とのやりとりを重ねるなかで濃厚なドラマが足されていったという。なぜ、このような事態が生じるのか。業界関係者の見解を交え追ってみたい。

 昨年11月に公開された映画『ゴジラ-1.0』(東宝/監督:山崎貴)が全世界興行収入140億円となり、米アカデミー賞・視覚効果賞のノミネート5作品の中に日本映画としては初めて選出されるなど快進撃を続けるなか、何かと比較対象として挙げられるのが『シン・ゴジラ』だ。『ゴジラ-1.0』の国内興行収入は初週こそ『シン・ゴジラ』を超えたものの、累計80億円超の『シン・ゴジラ』に対し、『ゴジラ-1.0』は55億円(24年1月末時点)ほどとなっている。

 そんな『シン・ゴジラ』制作の裏側のエピソードが今、改めて話題となっている。『ジ・アート・オブ シン・ゴジラ』に収録されたインタビュー記事内で庵野氏は、

<東宝プロデューサー陣の各種要望を足していった結果、僕が最初にやりたかった映画とは全く違うものになっている事を強く実感しました>

<打ち合わせの度に東宝側の要望が入り、その都度本来の方向からズレていっていた感じです>

と当時の憤りを告白。そして庵野氏は東宝に<ここまで自分が書いたプロットも東宝に差し上げるので、ギャラもいらないし、そちらで好きに進めて下さい>と伝え、降板を申し出ていたという。最終的に庵野氏は自ら総監督と脚本を務めることとなった。

「東宝としてはどうしても『庵野がつくるゴジラ』というかたちで『庵野』というネームバリューが欲しかった。それゆえに東宝側のほうが折れた。これが庵野氏でなければ、別の監督を据えて、まったく違ったゴジラがつくられただろう。『シン・ゴジラ』がここまでヒットしたのは、極限までわかりやすい人間ドラマを排除して『いかに人間がゴジラを倒すのか』という完全なシミュレーション映画になったという斬新さゆえ。ありきたりなヒューマンドラマの要素が強ければ、ただの凡庸な作品で終わっていた」(映画業界関係者)

 また、別の映画業界関係者はいう。

「もともと『シン・ゴジラ』は庵野氏は原案としてだけ携わる予定だったが、それでは自分の思い描くゴジラにならないと気づいた庵野氏が、結果的に総監督というポジションにつき、脚本まで自分で書くことになった。これは監督として実績がありアニメ界でカリスマ的な人気を持つ庵野氏だから許されたともいえる。また、東宝側が下手にヒューマンドラマを混ぜ込ませようとしたのは、興行成績をみても結果的には間違いだったといえるが、映画製作会社の意向を取り入れたことで作品的にも興行的にも良いほうに転がるケースもあり、この部分はなんともいえないところがある。また、原案・原作者と制作サイドが折り合いがつかなければ破談になるというのは、ある意味でフェアともいえる」

日本テレビの姿勢

 原作の改変といえば現在、『セクシー田中さん』の問題がテレビ・出版業界を揺るがす事案となっている。原作者の芦原さんは、ドラマ化を承諾する条件として日本テレビ側に、必ず漫画に忠実にするという点や、ドラマの終盤の「あらすじ」やセリフは原作者が用意したものを原則変更しないで取り込むという点を求めていたとされる。芦原さんが1月にブログなどに投稿した文章によれば、何度も大幅に改変されたプロットや脚本が制作サイドから提出され、終盤の9〜10話も改変されていたため芦原さん自身が脚本を執筆したという。芦原さんは先月29日に亡くなったと伝えられていたが、脚本を担当する相沢友子さんは自身のInstagramアカウントで今月8日、

<芦原先生がブログに書かれていた経緯は、私にとっては初めて聞くことばかりで、それを読んで言葉を失いました。いったい何が事実なのか、何を信じればいいのか、どうしたらいいのか>

と投稿。芦原さんが日本テレビと交わしていた取り決めを、相沢さんは日本テレビから知らされていなかったとみられている。日本テレビは詳細な経緯の説明などを行わず沈黙を守っていたが、世論の批判に押されるかのように15日には社内特別調査チームを設置すると発表した。

「原作者の強い意向を無視するかのように、何度も大幅に改変した脚本をつくり原作者サイドに提示し続けていたというところに、テレビ局と原作者の代理人である出版社の力関係が如実に表れている。要は日テレは原作サイドをなめていたのではないかと感じるし、その日テレの姿勢が問題をここまでこじらせた根本的な原因だと感じる」(ドラマ制作関係者)

アニメ制作では原作者も深く関与

 実写モノのテレビや映画で起こる原作改変をめぐる問題だが、アニメでは事情が違うようだ。日本アニメーター・演出協会(以下、JAniCA)の代表理事で、アニメ監督でもある入江泰浩氏はいう。

「『セクシー田中さん』で起きたような問題は、大昔はともかく最近のアニメでは聞いたことがない。漫画を原作とするアニメの制作では、基本的に原作者とアニメ制作スタッフが出席するシナリオ会議でシナリオからつくっていく。また、アニメで使用する絵コンテも一枚一枚、原作者に確認してもらいながら進めていくので、原作者とアニメ制作サイドの見解の齟齬(そご)というのは生じにくい」

 アニメ制作現場の関係者には、テレビ界で問題となっている原作改変をめぐるトラブルはどのように映るのか。

「はじめから原作者と脚本家が直接話せばよいのでは、と感じる。アニメとテレビドラマの文化の違いではないか」(入江氏)

(文=Business Journal編集部、協力=入江泰浩/日本アニメーター・演出協会代表理事)

入江泰浩/アニメーション監督、日本アニメーター・演出協会代表理事

入江泰浩/アニメーション監督、日本アニメーター・演出協会代表理事

様々な作品で動画・原画マンとして活躍し1996年「天空のエスカフローネ」で作画監督を務める。2009年には「鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST」で監督を、2023年「推しの子」7話の絵コンテ・演出を担当。国内外で高いクオリティを評価されている。

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