全国に1000店以上を構える大手作業服販売チェーン「ワークマン」。主力商品である作業服をはじめ、近年では「ワークマンプラス」「#ワークマン女子」などのストアブランドを展開しており、大きな反響を呼んでいる。2013年3月期は営業総収入(売上高)が451億円、営業利益が73.9億円だったが、23年3月期にはそれぞれ1283億円、241億円にまで伸びるなど、成長を続けている。
そんなワークマンの店舗の約95%はフランチャイズ加盟店だ。「ユニクロ」「GU」を擁するファーストリテイリングや「しまむら」はフランチャイズ制を採用しておらず、直営店を展開しているのとは対照的だ。フランチャイズといえば、開業資金の負担など開業までのハードルが高く、高額なロイヤリティーや慢性的な人手不足、人件費などのコスト負担に悩まされるケースも多い。そのため、「フランチャイズ=ブラック、儲からない」といったネガティブな先入観を抱いている人もいるかもしれない。
だがワークマン加盟店は、フランチャイズに関する悪評を吹っ飛ばすかのようなホワイト待遇が特徴だという。たとえば昨年10月13日放送の番組『ガイアの夜明け』(テレビ東京)ではワークマンが特集され話題に。X(旧Twitter)上には以下のような投稿が目立った。
<ワークマン店長、平均年収1000万円超え。労働時間は1日6時間。自己資金は224万円のみ。お店も商品もワークマンが用意してくれて、発注業務はAIで自動発注。狭き門を突破できれば、バラ色の人生>
目を疑いたくなるほどホワイトな内容に見えるが、ワークマン公式サイトのフランチャイズ加盟店募集のページでは、フランチャイズ店のオーナーの平均年収は「約1200万」と書かれている。ワークマンは自社のフランチャイズビジネスを「ホワイトフランチャイズ」と称しており、21年には『ホワイトフランチャイズ ワークマンのノルマ・残業なしでも年収1000万円以上稼がせる仕組み』(KADOKAWA)として書籍化もされている。
営業時間は短く、休みも獲得、独自の報奨金制度も
フランチャイズの加盟店は、オーナーの裁量によって大きく稼げるか、ワークライフバランスを実現できるかが問われるが、ワークマンの場合、その実態はどうなっているのか。ワークマン加盟店推進部部長の八田博史氏に聞いた。まず店舗の営業についてはどうなっているのか。
「一般的にフランチャイズというと、『休みなし』『長時間労働』といったイメージが先行するかもしれませんが、ワークマンの店舗では基本的に営業時間が7時から20時になっているほか、一部店舗を除き年末年始を含めて年間22日の店休日を設けています」(八田氏)
たとえばフランチャイズ制でまず思い浮かぶコンビニエンスストアは、24時間・365日営業のため、オーナーは長時間労働になるというイメージも強い。しかしワークマンの場合、営業時間が13時間であり、店休日も1カ月に1日はあると仮定すると、ホワイトな環境に思える。
「店舗スタッフの業務をできるだけ簡略化するように努めています。たとえば、レジの精算は営業時間終了後に行う企業が多いですが、弊社ではお昼に実施しており、開店・閉店作業を5分近く短縮できています。また弊社独自の需要予測発注システムを用いることで発注業務をできるだけ減らすほか、一部地域を除いて夜間配送を徹底していますので営業中の荷受けもありません」(同)
かなり働きやすい環境であることは納得できるが、「年収1200万円」も稼ぐには激務を強いられてしまうのではないか。
「もちろんオーナーが高い年収を得られている加盟店は各々努力されていますが、弊社では独自の報奨金システムを作っており、それが高い平均収入につながっているんです。オーナーの収入は月間粗利益額×40%となる加盟店収入から、光熱費などの加盟店負担経費、販促費、消耗品費など月間営業経費を差し引いた額となりますが、報奨金は本部が設定した条件をクリアすることで通常の収入にプラスされる金額となっています。一例ですが、年間売上が1億5000万円以上の店舗には『サクセス倶楽部』として年20~50万円、返品ゼロ・ルール遵守などを徹底した店舗には『買取顕彰金』として年30万円が支給されるんです。
弊社はこの制度に年間9億円も支出するほど力を入れています。そして99.6%の店舗が報奨金を受け取っていますので、1店舗平均で年93万円、業績が大きい店舗には年360万円以上も支給したことがありました」(同)
「夫婦経営」「地域住み必須」にしている深い理由
ワークマンのフランチャイズでは、Xの投稿にもあったように開業資金は224万円しか必要としない。また一度の契約期間は3年間だが、再契約率がほぼ99%でほとんどのオーナーは定年となる70歳まで再契約を重ねていく。一方でフランチャイズ契約をするためには、厳しい審査を受けなければならないという。
「加盟条件には、『25歳以上48歳未満のご夫婦で店舗運営ができる』『ご夫婦で参加が可能な方』『店舗近くにお住まいの方(地縁の無い地域への加盟は出来ません)』といった項目を設けています。夫婦という関係は、仕事のパートナーとして信頼できる関係性がすでに構築されていると考えておりまして、仕事がスムーズになったり、アットホームなコミュニケーションが生まれたりすることを見込めます。年齢制限を設けているのも、長く加盟店を経営するにあたって若さと柔軟な発想力が必要だと考えているからです。
また居住地域の判断については、地元で生活されている、もしくは高速道路を使わないで通勤40分以内にお住まいの方を目安としています。弊社は作業服を販売している会社ですので常連客も多く、地域社会に理解のある方が望ましいです」(同)
慣れ親しんだ地域に長年住み、地元のことを理解している人に自社の看板を背負ってもらいたいというのが、ワークマンの発想なのだろう。地域密着型の姿勢は、客のためのみならず、ほかならぬ加盟店のオーナーにも関係してくるという。
「加盟店のオーナーには地域の活性化や地域雇用など長期的な視点を持って、2代、3代と商売をしてもらいたいと考えています。我々が目指すのは、オーナーの子どもやその店舗のスタッフが後を継ぎたいと思える働き方。オーナーが定年を迎える際、47%の店舗がオーナーの身内によって事業継承されており(2020年末時点)、なかには一家全員がオーナーとなって営業しているというケースもあります。それほど弊社ではオーナーとその家族の事業定着率を高くすることに成功しているのです。
がっつり働きたい人もいればマイペースでやっている人もいるという、その自由度の高さこそがワークマンのフランチャイズの特色だと考えています。今後も各々のオーナーが自分らしい価値を求めながら、長く働き続けられるようなフランチャイズ展開を目指していきたいです」(同)
(取材・文=A4studio)