●目指すべきは地域密着型の経営スタイル
長くINAC神戸を追い続け、なでしこリーグに精通する記者は次のように話す。
「INAC神戸はチームを単独一社の大企業が支えるのではなく、地元の中小企業や住民一人ひとりが色々な形で支える地域密着のチームを目指す取り組みを進めています。例えば、各スポンサーに自社株を持ってもらうなど、チームづくりに一緒に携わってもらっています。地域密着型経営をうたう各チームが見習うべき取り組みとして評価できると思います」
だが一方で、INAC神戸1強となりつつあるリーグ全体については警鐘を鳴らす。
「サラリーキャップ制(クラブに所属する全選手の年俸総額に上限を設ける制度)を導入しなかったアメリカ女子リーグは、各チームの戦力差が顕著になり、結果としてリーグ全体の盛り上がりに欠け、一度廃止となりました。INACの1強時代が続けば、アメリカリーグと同じ道を歩む可能性もあります。Jリーグのように、毎年優勝チームが変わるような競争力が、長い目で見ればリーグの発展につながると思います」
では、競争力の向上を考える上で必須ともいえる、なでしこリーグのプロ化は可能なのだろうか?
「プロ化の条件の1つとして、1チームのスポンサー収入『2億円』が基準となります。各チームはスポンサー集めに苦労していますが、中部の某チームがユニフォームの胸部にロゴを入れるスポンサーを募集した際、すぐに手を挙げた企業があったという現実もあります。将来的には可能性は十分あるといえるのではないでしょうか」
●新しいスター選手の出現と、若手選手の底上げが課題
1月29日に行われたINAC神戸の新体制発表会では、新加入選手の入団発表は18歳の若手選手5人のみにとどまった。昨季チームの躍進を支えたチ・ソヨン、ヤネズといった外国人選手の退団に加え、チームの顔ともいえる川澄奈穂美、近賀ゆかりの海外移籍も間近に迫っている。今季INAC神戸が掲げる「若手選手とベテランの選手の融合」というテーマは、「なでしこ」を一過性のブームで終わらせず、将来のリーグの発展を考えた上での1つの試金石であるような気がしてならない。たとえチームの主力選手を放出しても、田中陽子、仲田歩夢、京川舞といった次世代のスター候補の若手選手が台頭しやすい環境づくりが、フロントも急務と捉えている。
まだあまり注目されていない選手を自分の目で発掘する――そんな観戦方法もなかなか“粋”ではないか。そんなことを考えながら、今年はスタジアムに足を運ぶことになりそうだ。
(文=栗田シメイ/Sportswriters Cafe)