女子サッカー日本代表チーム、いわゆる「なでしこジャパン」は、2011年にドイツにおいて開催された「2011FIFA女子ワールドカップ(以下、W杯)」での優勝後、国民栄誉賞、紫綬褒章、同年の流行語大賞を受賞し、国内に空前のブームを巻き起こした。
国民の期待を背負い挑んだ12年のロンドンオリンピックでは、決勝戦で米国代表に惜しくも1対2で敗れはしたが、日本女子サッカー初の銀メダルを獲得したことで、その後もなでしこブームは継続するかと思われた。
しかし、昨年のアルガルべ杯でグループリーグ敗退、国際親善試合で連敗など、若手の底上げができない代表チームは不振を極め、国内のリーグにも影を落とした。なでしこリーグ3連覇中のINAC神戸レオネッサは、ピーク時には1試合に約2万人の観客を動員したが、昨季はホームゲーム開催で、2503人というドイツW杯以降最低の動員数を記録した。なでしこリーグ1番の人気チームで、「なでしこジャパン」に最多の選手を送り込み、昨年は「なでしこリーグカップ」「なでしこリーグ2013」「mobcast cup国際女子サッカークラブ選手権」「第35回皇后杯」の4冠を達成した“絶対王者”INAC神戸でさえこの状況ということは、他チームの現状は推して知るべきだろう。
そこで今回は、INAC神戸のケースを中心に、なでしこリーグの現状を紐解いていきたい。
●W杯優勝後のなでしこブーム
ドイツW杯優勝によって、なでしこリーグを取り巻く環境は一変した。優勝前は、ホームでの1試合の平均観客動員数が912人だったINAC神戸は、優勝後の11年は1万3646人を数えた。他のチームに目を向けても同じ傾向にあり、アルビレックス新潟は1434人から5714人と4倍近くにまで増えている。
しかし、オリンピックの開催年であった12年、INAC神戸のリーグ開幕戦の観客動員数は6776人。13年の開幕戦は4012人と、さらに落ち込みを見せる。メディア露出も減少し、ブームに陰りが見えている現実は受け止めなければならないだろう。
ドイツW杯優勝後「なでしこジャパン」のスポンサーであるアウディは、小型乗用車「A1」22台を3年間の無償リースとして選手たちに提供した。贈与しなかった理由は、代表クラスでもプロ契約が少ない選手たちの車にかかる税金や保険など、諸経費の負担を軽減するためだ。
INAC神戸の運営会社アイナックコーポレーションの親会社、アスコホールディングスを率いる文弘宣会長は、なでしこブームについて「どんなことでもブームというものは上下するもの。ただ、ブーム後の改善策を戦略的に練ることが大切」と話しており、INAC神戸はなでしこリーグの他クラブに率先してクラブ独自の制度の導入を始めた。
ほとんどの選手が収入源をアルバイトに頼っているという、なでしこリーグの現状を打破するべく、INAC神戸は13年に全選手を運営会社であるアイナックコーポレーションの社員とし、社業に就くことのないセミプロ契約制度を導入した。この制度により、Bチームに所属する選手までサッカーに専念できるようになり、チーム内の競争意識が高まったことは、昨年度の4冠達成と決して無関係ではないだろう。