世界ワクチン市場で戦えない日本企業
この提携から見えてきたのは、日本の製薬企業の限界だ。第一三共は国内では武田薬品工業、アステラス製薬、エーザイとともに4強の1社に位置づけられる。ワクチン事業は北里研究所と提携して61年から販売に乗り出しており、歴史は古いものの「代表的な開発品もこれといってなく、世界とワクチンで戦う力は持ち合わせていない」(業界関係者)と評価されている。実際、開発品はサノフィとの共同開発品である、不活化ポリオの入った4種混合ワクチンが目立つ程度だ。
国内最大手の武田も、昨年になってやっとワクチン事業の本格化を打ち出したばかり。世界展開を標榜するが、製品は外資系企業などの他社開発品の権利を買うことが中心となる。製造技術も後れを取っており、これも外資系頼りだ。エーザイは「ワクチンはやりたいが、そんなリソース的余裕はない」(同社首脳)と、ワクチン事業に参入もしていない。
障壁が生んだいびつな構造
また、日本の製薬企業は、最近までほとんど国内と米国の市場のみをターゲットとしていたため、ワクチン事業どころか医薬品全体のグローバル展開でも外資系に後れを取っているのが現実だ。第一三共の売上高は世界トップであるアメリカのファイザーの4分の1以下にすぎない。主力である医療用医薬品の開発でも、外資系に遅れを取らないようにするのがやっとの状況だ。
半面、国内では強力な営業力を持っている。厚生労働省が医薬品の採用に厳しい基準を設けていたことから、日本市場における外資系の製品展開が、海外のようにはいかなかったためだ。日本は世界2位の医薬品市場であり、そこを国内企業で分け合う時代が長く続いた。そのため、日本国内における外資系製薬企業の営業力は弱い。そこを埋めるのが、豊富な営業要員を抱える第一三共などの国内企業、という構図が成り立つわけだ。
最近は、世界で使われている有効な医薬品が国内で製造販売承認を受けていない、「ドラッグラグ」という状況はなくなりつつある。だが、規制障壁の名残はまだまだある。ワクチンはその最たるものだ。製薬企業は新しい製品を生み出してなんぼの商売のはずだが、ワクチンでは他社の製品を自前の営業で売る「販売代理店」のようなビジネスで戦わざるを得ないのが本当のところだ。
(文=メディカルジャーナリスト 草野 楽)