筆者は仕事柄、非常に移動が多く、タクシーを頻繁に使っている。流しのタクシーを拾えれば簡便なのだが、駅から離れた場所や、工場、生産現場、研究開発拠点などの都心から離れた場所に行くことも多く、そのような場所でタクシーを拾うことは容易ではない。そこで最近は、スマートフォンに入れているアプリを使ってタクシーの手配をしている。よく使うのが、日交データサービスの提供する「全国タクシー配車」と、昨年の日本上陸以来話題になっている「Uber(ウーバー)」である。これらのサービスは順調に知名度が上がってきており、ご存じの方も多いと思う。ところで、これら2つのサービスには少し違いがある。
全国タクシー配車とは、日本交通グループの日交データサービスが開発し、2011年12月13日にリリースされたタクシー配車用アプリである。GPS機能で全国47都道府県の提携タクシー会社117グループのタクシー約2万台の中から、乗車場所の近くを走行している車両を呼ぶことが可能だ。操作性も高く、非常に使いやすいアプリになっている。迎車には各タクシー会社規定の料金がかかるが、あらかじめクレジット情報を登録することで、降車時に支払い手続きが不要になるサービスも行われている。ダウンロード数は14年4月時点で120万件となり、アプリ経由のタクシー配車台数は累積100万台、タクシー売り上げ総額は25億円を突破した。リリース当初は使いづらい面もあったが、最近は快適に動作し、筆者は大変重宝している。クレジットカード事前登録制度ができたこともあり、降車の際のカード決済が不要になった点は非常に大きい。たかが2~3分の違いであるが、されど2~3分なのである。
高級感のある乗車体験ができるUber
一方のUberは、リムジンタクシー手配サービスだ。一般のタクシーアプリとの違いは、ハイヤーと呼ばれる黒塗りの高級車が配車され、ドアの開け閉めを運転手が車を降りて行ってくれるなど、高級感のある乗車体験ができる点だ。また、配車時点でドライバーの名前、写真、車種、車のナンバーも表示される。ちなみにUberで提供されるハイヤーは、トヨタ自動車のクラウン、日産自動車のフーガ、BMWなどの車種が中心となる。移動中も仕事をしたいビジネスパーソンや、タクシー特有の臭いが苦手な女性などには、広い車内で快適に過ごせ、ドライバーの顔が見えるサービスはとても魅力的といえるだろう。利用料金は、最低金額が800円で、毎分65円、1kmごとに300円が課金されていく。アプリの機能であらかじめ概算料金を見積もることが可能になっている。
こちらも決済はアプリの初回設定時に登録したクレジットカードで行うため、タクシーから降りる際の支払いは必要ない。目的地に到着すると、Uberのアプリ上に金額が表示され、しばらくすると登録したメールアドレスに走行したルート、走行時間、走行距離、平均速度などが細かくレポートされた領収書が届く。こういったサービスも他の配車アプリにはない機能で、Uberの特徴といえるだろう。個人事業者でもiPhone1つで契約ドライバーになることができる手軽さが好評で、Uberを利用して開業するタクシー運転手も増えているという。
2つのアプリの使い分けとしては、Uberはまだ日本で開始されて間もないサービスということもあり、配車台数が全国タクシー配車には劣っている。そのため、都心から離れた場所では少々使い勝手が悪い。都内で仕事をしながら移動をしたい時、少し時間に余裕のある時はUber、都内から離れた場所での移動が必要な場合は全国タクシー配車を利用するのが良いのではないかと思う。
車アプリの成功に見る新ビジネスの種
これまでタクシー業界は、なかなか新しいサービスが生まれてこなかった。しかしここ数年、12年に日本交通が「陣痛タクシーサービス」を始めるなど新しいサービスが出始め、Uberのような新規参入企業も現れるなど、変動の兆しが見える。横並びの画一サービスが義務付けられているかのような日本のタクシー業界ではあるが、本来ならば小型の中古車を使い乗車料金を半額にする、逆に高級外車限定で倍の値段にする、または車内で飲食物等を販売する、長距離に対しては大幅ディスカウントを導入するなど、新しいサービスが出てきても良いのではないかと感じている。
常に目線を広げ新しい動きを把握すること、把握したものから成功のポイントを検討することで、新ビジネスの種を見つけられるようになる。すなわち、さまざまな事象から成功のポイントを抽出し、それらをまとめることによってキーファクターを導き出す「クリスタライズ」という手法は、新規ビジネスを検討する際に有効だ。
タクシー配車アプリの成功から、どのようなことがクリスタライズできるだろうか?
まずは、位置情報を送信できるGPS機能、タクシーの居場所をすぐに把握できるリアルタイム性、スマートフォンの普及で誰もがその場で作業ができるモビリティ(移動性)などが挙げられるのではないだろうか。
皆さんもぜひ、現在注目されているビジネスや、そこから発想できるビジネスについて検討してみてほしい。
(文=岡田和典/経営コンサルタント・金沢工業大学大学院客員教授)
※本稿は、岡田和典氏のメルマガ「最新事例に学ぶ事業価値創造のキーファクター – 岡田流ビジネスマインド養成講座 -」から抜粋したコンテンツです。