勝者となった西田社長は半導体と原子力発電事業を経営の二本柱に掲げた。東芝は総合電機だが圧倒的にナンバーワンといえる分野はなかった。「選択と集中」を進めた結果、半導体は国内首位で世界三位(当時)、原発は世界首位に躍り出た。
●日本の原発輸出に吹き荒れる向かい風
原発は一基つくれば、そのメンテナンスで食っていける美味しいビジネスといわれていたが、リスクは原発事故と背中合わせである。東芝の原発事業は、11年3月11日の東日本大震災前には受注残が14基(中国4基、米国8基、日本2基)あった。原発の売上高は「目標として掲げた1兆円を、2年前倒しして2014年3月期に達成する」と、ものすごい鼻息だった。
だが、東京電力福島第1原子力発電所の事故以来、世界の原発市場は一変。新規計画のキャンセルや見直しが相次いだ。
東芝は11年9月、WHの株式20%を追加取得すると発表した。売り手は米エンジニアリング大手のショー・グループで取得金額は1250億円。ショーは東芝が06年にWHを買収した際、WH株20%を保有することで合意。その際、資金調達のために発行した社債の償還期限前にショー側が東芝にWH株式の買い取りを請求できる契約があったとされる。原発事故を受け、このビジネスの先行きに見切りをつけたショーは、WH株式の買い取りを東芝に求めたということだ。
WHの株主構成は東芝が発行済み株式の67%、ショーが20%、カザフスタンの国営原子力事業会社カザトムプロムが10%、IHIが3%。ショーの分を追加取得すれば東芝の持ち株比率は87%に上昇する。
「WH株追加取得」の報道を受け、11年9月6日の東京株式市場で東芝の株価は急落し、2年5カ月ぶりに300円を割り込んだ。この期に及んで原発事業に1250億円の追加投資をするのはリスクが大きすぎると投資家は懸念したのだ。
結局、東芝は追加取得を断念した。ショーは2013年1月までにWH株式を手放すことにしている。しかし売却に関してショーは自分では売る力がないので東芝が仲介することになる。だが、前途は多難だ。
「東芝 原発受注へ企業連合 米子会社株売却、出資募る」(読売新聞8月14日付朝刊)というスクープ記事(!?)が出た。東芝が67%保有しているWH株式のうち16%を、新興国と強いパイプを持つ米国の原子力関連企業などに売却するという内容だ。
国際的な企業連合を形成するという前向きのトーンの報道だったが、WH株式の売却は「東芝が原子力事業の比重を下げるためのもの」との観測が浮上した。「撤退説」まで取り沙汰された。東芝は「WH株は50%以上を維持する方針」として撤退説を完全に否定した。しかし、株式市場はそれで納得したわけではない。「経営上のリスクを考えたら原発の比重を下げざるを得ないだろう。近い将来、原発事業から撤退するところが出てきても何ら不思議ではない」(重電担当の証券アナリスト)