●国債市場が干上がる可能性
だが、この異次元緩和にも限界がある。なぜなら、このまま日銀が買い入れ額を増やしていけば、近い将来、市場で取引される国債は底を突くからだ。
理由は単純である。大雑把であるが、財政赤字(新規の国債発行額)が約30兆円としよう。日銀が異次元緩和で市場から毎年約80兆円の国債を買い入れると、金融機関が保有する国債のうち50兆円(80兆円-30兆円)を日銀が吸収してしまう。14年時点で国債発行残高は約800兆円であり、すでに日銀は約200兆円の長期国債を保有しているから、「(800-200)兆円÷50兆円」という単純計算の結果、約12年間で日銀はすべての国債を保有し、国債市場が干上がってしまうことになる。
もちろん今後の財政赤字の状況や、日銀以外の各保有者の動向によっても、結果は違ってくる。例えば生命保険会社等は、資産運用のために国債が必要だ。だから実際には12年も待たないうちに国債市場は枯渇することになる。
以上のとおり、金融政策は財政・社会保障改革を行うまでの時間を稼ぐことしかできない。増税を延期するのであれば、社会保障の抜本改革を早急に進める必要がある。
なお、今年7月に内閣府が公表した「中長期の経済財政に関する試算」は、消費税率が15年10月に10%に引き上がり、14年度の実質GDP成長率が1.2%であることを前提にしているが、増税は延期され14年度の成長率はマイナスとなる可能性が高い中、これらの前提はすでに崩れている。成長率や税収の伸び等を操作することで一定の「粉飾」も可能だが、15年1月の改訂版(中長期試算)に示される財政やマクロ経済の将来像が、基礎的財政収支の目標を含めどのような姿になっているかで、財政・社会保障改革という宿題に対する新安倍政権の本気度や本性が示されることになるはずだ。
(文=小黒一正/法政大学経済学部准教授)