しかも、東電関係者の中には「限りなく公人に近い」扱いを受けている人物も少なくない。たとえば、勝俣前会長の私邸前には警察官が常駐し、付近を通行する者に対して警戒の目を注いでいる。なぜ、政治家でも官僚でもない東電幹部の私宅に公権力が関与しているのか、その理由については東電も警察も明らかにしていない。
●過去には、セブンーイレブン関連本も配本拒否
一方、取次が今回のような異例の措置をとったケースとしては、2008年、コンビニエンス業界最大手のセブンーイレブンを題材にした『セブンーイレブンの正体』(金曜日)が出版された際だ。ただし、その時は各方面から批判を受けたため、後に撤回している。この時は、セブンーイレブンを経営するセブン&アイ・ホールディングスCEOである鈴木敏文氏がトーハンの出身であり、さらにセブンーイレブンがトーハンとの業務上の関係が深いことなどが理由と考えられた。
さて、『タブーなき〜』については、発行から1カ月以上経た現在でも、配本拒否の対応に変わりはなく、書店に委託配本されるのは発行部数の一割程度にとどまっている。
また、9月下旬には鹿砦社のホームページについてグーグル検索をかけると、
「このサイトはコンピュータに損害を与える可能性があります」
「攻撃サイトとして報告されています!」
と表示され、内容が閲覧できないという事態が、いくつかのブラウザで発生した。これについて同社のサイト管理担当者がシステムを確認したところ、外部から不正にデータをいじられた痕跡が確認された。この障害はただちに修正され、現在では鹿砦社のサイトは正常に閲覧できるよう復元された。
もし同社のサイトまでもが閲覧困難という事態が続いたとしたら、『タブーなき〜』の入手がさらに難しくなるという状況に陥ることはいうまでもない。10月16日時点では、どのような意図を持って誰がそうした行為を行ったのかは不明である。ただし、これまで同社のサイトで同様の事態が発生したことはなく、同書刊行後にこうした事件が起きたことに、関係者は関心を寄せている。
だが、そうしたいくつもの問題点を抱えながら、『タブーなき〜』は徐々に販売数を増やしつつある。鹿砦社への直接注文のほか、一部の書店では独自の判断によって同書を入荷し、店頭に陳列している。
震災と、それによって起こった福島第一原発の事故から、すでに1年半以上が経過した。いまだに福島第一の事故現場周辺では多くの住民が帰宅のめどすら立っていない状況が続いている。そればかりか、時間の経過とともに東電や関係者の対応等についての資料が公開されると、同社の無責任さや、利益優先・人命後回しの体質などが次々に明らかとなっていった。
こうした責任追及の声が風化するのを防ぐという点においても、同書のような資料には重要な意味があると考えられるのではなかろうか。
(文=橋本玉泉)