搾取される中間層 金持ちはより金持ちに、貧乏はより貧乏になる理由 進む富の偏在
この法則は、企業に当てはまるのだろうか。試しに管理会計を使って考えてみよう。
企業における資本とは、調達した資金(=お金)のことだ。企業は、資金を資産として運用して利益を得ている。バランスシート(BS)を見れば、企業における資金の状態は一目瞭然だ。BSの右側である負債と資本は資金の調達源泉を、そして左側の資産が資金の運用状態を表しているからだ。
経営者のミッションは、株主や債権者から預かった資金を効率的に運用して利益を上げることだから、総資産(=総資本)に対する利益の割合を表す投下資産利益率ROA(利益÷総資産)が、経営効率を測定する指標として用いられるのである。
このROAはピケティのrと同義と考えられる。そして、もうひとつのgは、企業の売上高増加率に置き換えることができる。
つまり、ピケティの法則を企業に適用するならば、ROAの伸び率は、常に売り上げの伸び率に勝っているということだ。
こう考えると、巨大企業がますます巨大化する理由が見えてくる。ROAは常に売り上げの伸び率より高いので、利益は売り上げの伸び以上の速度で増え続ける。その結果、巨大企業の資本はますます増加して投資も増える。こうして巨大企業の利益と資本は増殖し続ける。例えば、中国の国営企業が瞬く間に世界のトップに躍り出たのも、韓国のサムソングループや現代グループが突出して拡大し続けるのも、戦前の我が国の財閥が解体させられたのも、同じ理由といえそうだ。逆に、中小零細企業の経営がいつまでたっても資金繰りが苦しいのは、そもそも運用できる資本が少なく、かつROAが低いからである。
●相続増税のまやかし
とはいえ、企業と個人に同じ法則が当てはまると断定するのは早計だ。なぜなら、企業は常に競争にさらされており、マネジメントがうまくいかなければ倒産に追い込まれて、すべての資産が消えてしまうことがあるからだ。ところが、資産家の家庭に生まれ落ちれば、それだけで資産を手にすることができる。そして、しかるべき機関に資本運用を任せれば、本人が何もしなくても資産は所得を増やし続ける。
つまり資本主義の社会では、必然的に所得と資産の偏在が生じてしまうということだ。だからこそ、この不公平を是正するために、国による強制的な富の再配分が必要であり、具体的には相続税の課税強化ということになる。
日本では、今年から格差是正、富の再分配機能強化の観点から、相続税法が大きく変わった。主な改正点は、基礎控除の引き下げと、税率の引き上げだ。基礎控除額が「5000万円+法定相続人×1000万円」から「3000万円+法定相続人×600万円」に縮小され、2億円超の金額に対する税率が引き上げられ、6億円超の最高税率が55%になった。