かつて石原慎太郎東京都知事(当時)による、ペットボトルに入ったすすを振りかざすというパフォーマンスも大いに効果があったのか、すっかり環境に対する悪役イメージが定着。一時は日本の道路から完全に駆逐されるかの状態にあったのが、ディーゼル乗用車だ。ところが、ここにきて、その存在感が再び高まっている。
2011年のディーゼル乗用車の日本の年間新車市場は9000台弱。ところが、翌12年にはそれが一挙に約4万台へと急拡大。さらに、それから2年後の14年には約7万9000台へと、今でもその上昇カーブは止まらないのだ。
14年の軽自動車を含む乗用車販売台数が約556万台だったことからすれば、「まだ微々たるもの」という見方もできるだろう。しかし、ほんの数年前まではほぼゼロに等しかったのだから、こうした動きはもはやひとつの社会現象と表現してもオーバーではないはずだ。
そして、そんなディーゼル車ブームを盛り上げるのに、ひとり気を吐いているのがマツダだ。何しろ、昨年のディーゼル車新車販売のうち、実に過半の約4万8500台をマツダ車が占める。一方で、世界一の生産台数を誇るトヨタの国内ディーゼル車販売台数は、驚くことにゼロなのだ。
メルセデス・ベンツやBMWなども日本でディーゼル車を販売をしてはいるが、それらはいずれも趣味性の強い高額なモデルばかり。ディーゼル車を“庶民価格”で提供しているのは、事実上マツダ1社に限られる。
●ディーゼル車人気の要因
1970年代後半から90年代にかけ、日本でもディーゼル車がそれなりの人気を博した。当時の人気の要因は、オイルショックによるガソリン代高騰や、燃費に優れないRV車の台頭などであった。いずれも燃料代が安いというポイントばかりがメリットとしてクローズアップされていた。
一方、昨今のディーゼル車人気の要因は、明らかにそんな過去のものとは異なっている。確かに、税額の違いから燃料である軽油の単価そのものがガソリンよりも安く、さらに機構上効率がガソリンエンジンよりも高いため燃費もより優れるという特長は、以前から変わってはいない。
しかし、車両価格そのものはガソリン車よりも高価で、必ずしもエコノミーとは言えない。にもかかわらず昨今人気を博すことになっている大きな要因は、ずばり「ガソリン車よりも“走り”に優れているから」という点にある。
マツダが生産する自動車の中では最もコンパクトであり、それゆえ購入者の価格に対するこだわりも強いはずのデミオでさえ、過半がディーゼルモデルで売れている。価格面ではガソリンモデルより1割以上割高にもかかわらず好評な理由は、ひとたびアクセルペダルを踏み込んでみれば誰もが即座に納得できるだろう。
スタート直後の低回転域から、見えざる巨大な手によって後ろからドンと押されるような迫力の加速感は、残念ながらガソリンモデルでは得られない。そもそも低回転トルクが強いディーゼルエンジンにターボチャージャーを加え、さらに排気量もディーゼルのほうが200cc増し。ディーゼルモデルのほうが走りに優れるのは当然でもあるのだ。