昨今のマツダのディーゼル車は、デミオ以外の車種でもすべからくその動力性能がガソリンモデルの上をいく。ガソリン車よりも高価になってしまうハンディキャップを逆手に取り、ディーゼル車をかつてのような燃料代のみを訴求するものではなく、「走りに優れた、よりプレミアムな存在」としてしつらえている点が、昨今の成功の大きな要因になっているわけだ。
●欧州ではガソリン車シフト加速
こうして、ディーゼル車が日本で新しい活路を見いだす一方で、そもそも比率が高い欧州市場の中にあって7割以上がディーゼルといわれてきたフランスで、逆に最近ガソリン車シフトの動きが見られるのは興味深い。
そうした動きが顕著なのは、低コストが重要な鍵となるコンパクトモデル群。これは昨今の排ガス規制の強化とリンクした動きである。排ガス浄化のために新たな装置が必要になると、価格の上昇と燃費の低下が避けられない。ならば、こうした部分にさほどの費用が掛からないガソリンエンジンのほうが、これからの時代に分があるはずという判断が下されているようだ。
具体的には、最新のプジョー308に初搭載された、PSA(プジョーシトロエン)グループのターボ付き1.2リッター3気筒エンジンが当たる。ガソリンエンジンを自らで開発するのは久々なのに、低回転域はまるでディーゼルのようにトルクが太く、高回転域ではライバルのフォルクスワーゲン(VW)のダウンサイズされたガソリンユニットよりもはるかにパワフルであることに驚かされる。
これまでガソリン一辺倒にすぎた日本と、逆にディーゼルがメインというイメージの強かったヨーロッパのエンジンの流行が、まさに今クロスするような動きを見せている。その時々にふさわしい自動車用パワーユニットというのは、世の中の動きやエネルギー事情など、さまざまな条件によって大きく変わってしまうもの。
ガソリンエンジンにディーゼルエンジン、ハイブリッドに電気自動車……と、この先も世界各地で多彩な“心臓”が生き残っていくことは確実。いかにトヨタが燃料電池車の特許を公開しようとも、政府がいかにインフラ整備に補助金を出そうとも、ここ10年や15年で一気に水素社会がやってくることなどあり得ないのである。
(文=河村康彦/モータージャーナリスト、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員)