日銀:追加緩和見送り、供給策見直し…決定会合 – 毎日新聞(7月12日)
「日銀の緩和が十分でないからデフレが続いている」「いや十分な金融緩和を行ってきた、問題は実体経済だ」という経済学者間の議論がありますが、これはもはや神学論争に近いと思います。デフレの要因は複合的であり、どちらの主張が絶対的に正しいかということは実証できないのです。ケインズは経済学について「物理のような自然科学ではなく、精神科学だ」と言い、単純化された経済モデルや統計分析に偏った数量経済学的アプローチを批判しました。筆者の知人である日銀幹部は「金融政策は何を信じるかという宗教に近いものがある」とも言っていました。インフレ期待が中央銀行の動きをどこまで信じるかということと無縁ではないことを考えると、あながちこの見方も間違っていないような気がします。
私自身は、いまの状況で、日銀の追加緩和によって景気を底上げする効果には限界があると考えています。国民全体の将来に関する不安を払しょくしない限り、消費は増えない。企業は投資を手控え、企業に資金需要がない以上、いくら金利を下げても、あるいは貨幣供給量を増やしても、お金は銀行に貯まるばかり。日銀が直接資産を買い入れしたとしても、持続的な効果は限定的。
金融政策は時間稼ぎとしての効果はいくらか期待できるとしても、抜本的な対策にはなりません。わが国の隅々に見られる非効率を無くすための規制改革、そして競争力がない企業が退出し、新しい企業が生まれるような新陳代謝を促すことが不可欠だと考えます。日銀をスケープゴートにすることは思考停止を招き、真の痛みを伴う改革から逃げることを助長するだけではないでしょうか。
日本経済は緩やかに回復しつつある=円高・株安で経済財政担当相 – ロイター(5月29日)
円高の問題も、その原因を考えてみる必要があると思います。最近、シンガポールで外資系投資銀行の為替責任者を務める友人と話をしました。あたかも投機マネーで為替レートが上下するような報道が目立つのですが、為替の方向を決めるのはあくまでファンダメンタルズであって、投機マネーはそのスケールやスピードを助長させるに過ぎないとのこと。円について為替レートを決定するファンダメンタルズは、円を売る人と買う人のボリューム比であり、円高が続いているのは、円をたくさん買う人の方が売る人よりも構造的に多いことから生じているのです。
トヨタ、日産、パナソニックなどの輸出企業は、日本でモノをつくって海外で売る。売り上げはドルでもらいます。すると日本の部品メーカーに代金を払い、従業員に給料を払うために、ドルを円に戻さなくてはならない。円を買う、つまり輸出は円高圧力を生むわけです。