沢尻エリカ主演の水曜ドラマ『母になる』(日本テレビ系)の第3話が4月26日に放送され、平均視聴率は前回から1.4ポイントダウンの9.3%(関東地区平均、ビデオリサーチ調べ)だったことがわかった。視聴者からは沢尻エリカや小池栄子の演技力をたたえる声が上がっているが、視聴率には結びついていない。
第2話はジェットコースターのような展開で視聴者を翻弄し、結衣(沢尻)や陽一(藤木直人)の前に立ちはだかる重い現実を予感させたが、第3話ではいよいよ広(関西ジャニーズJr. 道枝駿佑)が結衣や陽一と一緒に暮らすことに。バラバラになっていた家族3人が9年の時を経て“再結成”される様を描いた。前週に流れた予告映像では、誘拐された広を7年間育てていたという門倉麻子(小池)が結衣のもとを訪ねてきた場面が映っていたため、修羅場的な“胸クソ”展開が待っているのではと予想した視聴者も多かったが、結果的にそれは良い意味で裏切られた。
第3話のテーマとなっていたのは、「うそ」だった。主要な登場人物がそれぞれにうそをつく。だが、決して自分のために人をだまそうとしてうそをつく人はいない。人は、時に誰かを傷つけまいとしてうそをつく。だが、そんな善意のうそが人を傷つけることもある。誰もがなんとなくは理解しているそんな現実が、登場人物を通して丁寧に描き出された。
施設から引き取られた広は、まったく覚えていない祖母・里恵(風吹ジュン)のハグもうれしそうに受け入れ、相変わらず“いい子”に振る舞う。結衣の友人・莉沙子(板谷由夏)も「怖いくらい素直でいい子なんですけど……」と戸惑うほど。第2話を見た視聴者と結衣・陽一の2人にはその理由がわかっている。広は育ての親・麻子の言いつけに従って「素直ないい子」を演じているだけなのだ。
相変わらず麻子のことを慕っていることは、スマートフォンで撮った結衣や陽一とのツーショットや食事の写真をその都度麻子に送信していることでわかる。だが、「写真誰に送ってるの?」と結衣に聞かれ、施設の先輩に送っているとうそをつく。これも、結衣たちを傷つけまいとする彼なりの配慮なのだろう。
結衣も広に対してうそをついた。広を安心させるため、陽一とはずっとうまくやっていて仲良しだと告げたのだ。うそを見破られないためにと一緒の部屋で布団を敷いて寝たり、広の前で「陽ちゃん」と呼んだりするが、ぎこちなさはぬぐえない。
そんななか、麻子が突然訪ねてきた。てっきり、自分のほうが母親にふさわしい、もしくは自分のほうが慕われていると主張しにきたかと思いきや、そうではなかった。広が誘拐された子どもだったとは知らず、置き去りにされた子を助けたつもりでいた。知らなかったとはいえ申し訳ない。警察に行っても構わないし、自分に対して裁判を起こしてもらっても構わない――と頭を下げる麻子。だが、2年前にどうして広を手放したのかとの問いには「女1人で子どもを育てるのは大変なので施設に預けました」とあからさまなうそをつき、広に言い聞かせるかのように「もう忘れました。広と暮らした日々のことなんて」と言い放つ。
自らの中にある広への思いと、広が抱く自分への愛情をともに断ち切ろうとしてつくうそが悲しい。自分を追いかけてきた広を、麻子はさらに突き放す。「ママもう会いたくないから。疲れたから。忘れたいから。忘れたから」と怖い顔で追い返すのだった。
「うそをつくのは人間だからだよ」
この場面は非常に切ない。麻子がうそをついてでも突き放さなければ、いつまでたっても広は実の親と幸せに暮らせない。だが、物心ついてから7年間も育ててくれた母親に冷たい言葉を掛けられた広の心中も察して余りある。かといって、麻子が優しく「実の両親と仲良く暮らしなさい」と教え諭すのが正解だったのか。ぐるぐると考えを巡らせても、いっこうにわからない。
涙を浮かべながら家に帰ってきた広は、結衣に「どこ行ってたの?」と聞かれて「コンビニで立ち読み」と明るく答えた。その頃麻子は、スマートフォンに残していた広の写真を涙をこらえながら1枚ずつ削除していた。登場人物の誰もが、他人の幸せを願って時に切ないうそをつく。劇中で陽一はこう語った。「うそをつくのは人間だからだよ。生きてるからだ」。第3話は、そんな人間賛歌ともいえるのではないだろうか。
脚本にも役者の演技にも力がある今作。テーマが重い分、「心が元気じゃないと受け止められない」との声もあるが、今期のドラマのなかでも見ごたえのある作品だといえよう。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)