柴咲コウが主演するNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』の第19回が5月14日に放送され、平均視聴率は先週から0.7ポイントダウンの13.6%(関東地区平均、ビデオリサーチ調べ)だったことがわかった。
今回は、井伊の領内や隣接する近藤の領内の木々が何者かに盗まれるという事件が発生。近藤と協力して賊を捕らえてみると、その正体は直虎(柴咲)に2度にわたって知恵を授けた旅の男(柳楽優弥)であった。中野直之(矢本悠馬)や小野政次(高橋一生)は、この男を打ち首にするのが当然だと主張するが、恩ある相手を殺したくない直虎は、生かしておいて労役をさせる道を探る。だが、結論が出ないうちに男の姿は牢から消えていた。そんななか、井伊に直親(三浦春馬)の娘と名乗る女が訪ねてきた――という展開だった。
対立しているように見せかけて直虎を守ってくれていた政次の真意は前回ですでに本人にバレているため、今回は視聴者も、直虎と政次のやり取りをニヤニヤしながら見守るような心境になったのではないか。特に、犯人の処罰について政次に意見を求め、「打ち首にすべき」との答えが返ってくると、「政次が言うことは罠かもしれないから逆のことをするのがいい」との理屈で打ち首にはしないと決断した場面は、互いに信じあっている2人ならではの信頼感が伝わってくるようだった。自身が宣言した通り、直虎は政次をうまく利用することができた。領主としてまた一歩成長した瞬間である。
ここまでは良かったのだが、この後の展開がぐだぐだな感じになってしまったのが今回の残念なところ。政次は直虎の主張を聞き入れ、犯人にどんな労役をさせるのがよいか検討すると答えるが、その裏ではこっそりと犯人を近藤に引き渡そうとしていた。直虎は近藤への手紙を携えた使者が発つのを見つけて止めようとするも、政次に後ろから取り押さえられてしまう。これではどう見ても「実は信頼しあっている2人」には見えず、前回の和解はいったいなんだったのかということになってしまう。家臣たちの前では対立しているように見せかけながら、以心伝心で互いに立場を利用しあう関係――という設定自体はおもしろいので、それをもっと生かした脚本を望みたい。
おなじみとなった柴咲の疲れる演技
まんまとしてやられたと知った直虎が政次に食ってかかる場面も、毎度おなじみのキャンキャン叫ぶ柴咲の演技で食傷気味。少しならまだ許せるが、長台詞の場面で延々とシャウトされてもこちらが疲れるばかり。柴咲のせいか演出のせいかはわからないが、もうそろそろ直虎も領主らしい貫禄を身に付けて落ち着いた話し方をするようになっても良いのではないか。
男が結局逃げてしまったというオチだったことから、視聴者からは「今回のエピソードの必要性がわからない」という声も上がっている。筆者も、「材木泥棒をしていた男が捕まり、脱獄した」というストーリーそのものにはそれほど意味がないのではないかと考えている。ただし、男をどう裁くべきかをきっかけとして、直虎と政次が刑罰についての己の考えを述べたことには大きな意味がありそうだ。
直虎は「おなごは血など見飽きておるからの!」と政次に言い放ち、男に対して打ち首以外に打つ手があると主張する。一方、政次は領主として何を守るべきかの優先順位を考えよと諭す。2人の考えを総合して裏を返せば、井伊を存続させるためにほかに打つ手がない時は血が流れてもやむなし、ということになる。武門の家は時に、お家を存続させるために誰かの血を流す決断をしなければならないのだ。かつての直親の死は、まさにこれに当てはまる。そして、きっとこれからも同じことは起きる。その時直虎は、この日のことを思い出すのだろうか。
ただの深読みになるかもしれないが、今回はさほど重要ではないかのように見えるストーリーの中に、重い展開への伏線を忍ばせていた可能性がある。それだけに、一見すると「結局なんだったんだろう?」と思ってしまうような脚本だったのが惜しかった。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)