新型コロナウイルス禍で、多くの著名人がYouTubeチャンネルを開設した。そんななか、「はいだしょうこの歌とか、、、」と題して2020年4月3日にチャンネルを開設し、2021年2月現在20万人以上のチャンネル登録者を誇るのは、歌手・タレント等として活躍するはいだしょうこ。筆者は【前回】、宝塚男役OGを勝手にランキングした記事を書かせていただいたが、はいだは宝塚娘役OGである。現在放映中のNHK朝の連続テレビ小説『おちょやん』に出演の映美くらら、星蘭ひとみらも宝塚娘役OGだ。そう、宝塚歌劇団の卒業生では、元男役のみならず、元娘役にも芸能界で活躍する方は多くおられる。
ここでは、宝塚娘役OGに対象を絞り、勝手にランキングしてみたい。映像、舞台、CMなど幅広く活躍されており、宝塚ファンのみならず一般的な認知度の高い方を高ランキングとした。
はじめに、宝塚における娘役の位置づけについて説明しておきたい。
宝塚においてメインとされるのはやはり男役。娘役はよく“花束におけるかすみ草”に例えられるが、男役をより素敵に見せるための立ち位置である。そのため娘役が宝塚の舞台において主演を務めることなどは大変珍しく、トップの娘役といっても、あくまでも男役トップスターの引き立て役と考えていい。自分の魅力をどーんと前面には出しづらい――そんな立場を宝塚で経験したのち、芸能界に“船出”して活躍することは、非常にハードルが高いことかもしれない。
以下の方々は、そういう意味でも非常に稀有な才能をお持ちの方々なのである。
【第5位:野々すみ花】『世界ふしぎ発見!』のミステリーハンターとしても活躍、農家生まれの素朴さが魅力
1987年、京都府久御山町生まれの33歳、身長161cm、個人事務所に所属。
2005年、91期として宝塚歌劇団に入団、当初は花組で若手娘役として活躍したが、2009年に宙組に組替え、大空祐飛の相手役としてトップ娘役に(2009~2012年)。歌・ダンスともにハイレベルではあったが、なんといっても秀逸なのは演技力。筆者が最も印象に残っているのは、トップ娘役就任前の若手娘役時代に出演した花組公演『明智小五郎の事件簿〜黒蜥蜴〜』(2007年)。トップ娘役演じる早苗と、早苗の変装姿、早苗の替え玉と3役を見事に演じ分け、「誰だあの若い娘役は!」と宝塚ファンの間では話題に。
退団後は舞台、NHK朝の連続ドラマ小説等に出演しながら、『世界ふしぎ発見!』(TBS系)のミステリーハンターとしても活躍。実家が京都の農家ということもあり、素朴さが垣間見えるのもチャームポイントである。野々の強みは、どのような媒体、場面にもなじみやすく、順応性が高い点であろう。そうした順応性の高さは、宝塚現役時代、高い演技力ですでに発揮されていたといえよう。
【第4位:檀れい】CMでの“あざとさ”や及川光博との結婚・離婚で話題も、昨今は宝塚ファンへの露出増加
1971年、兵庫県温泉町(当時)生まれの49歳、162cm、太田プロダクション所属。
1992年に78期として入団。特記すべきことは、78期40名中、成績が最下位であったことであろう。毎年「宝塚おとめ」というタカラジェンヌの名簿(学年順、成績順に写真が掲載)が発売されるが、この年の「おとめ」では、「研究科1年の最下位のこの美人は誰だ!」と話題になった。
入団後は月組に配属、当初はスター路線ではなく脇役での色濃い役などを演じていたが、1997年に雪組に組替えになり急遽スター路線に乗る。その後月組に戻り、真琴つばさの相手役としてトップ娘役に就任(1999~2001年)、真琴退団後は専科に一度移り、その後星組に組替え、湖月わたるの相手役として再度トップ娘役に(2003年~2005年)。
退団後は映画『武士の一分』(2006年)で木村拓哉の妻役として話題に。長らく「サントリー金麦」のテレビCMに出演し、また宝塚ファンであるという及川光博との結婚・離婚でも話題になり、知名度は高い。近年ではテレビドラマへの出演が多いが、古巣である宝塚歌劇団のOGが集うイベントで司会をそつなく務めるなど、宝塚ファンへの露出も増えている。檀の強みは、トップ娘役になる人として王道とはいいがたい波瀾万丈な宝塚人生により培われた、求められる立ち位置を正確に判断できる、場を読める力であろう。「金麦」のCMでは「男うけを狙ったあざとさが鼻につく」「あんな女性現実にいない」等、女性からの不満が上がっていたが、それはCMの設定で求められる女性像をとことん追求した結果であったのだろう。宝塚の娘役が、舞台では現実にはいない理想の女性を演じる存在であることも一因であろう。
【第3位:はいだしょうこ】NHK「歌のお姉さん」時代の「スプー」の似顔絵の破壊力、現在はバラエティでも活躍
1979年、東京都生まれの41歳、身長158cm、ホリプロ所属。
1998年に84期として入団、星組に配属(在団中の芸名は「千琴ひめか」)。2001年『ベルサイユのばら2001』にて、エトワール(フィナーレのパレードの冒頭に歌を歌いながら大階段を降りてくる役)という大役に抜擢。通常エトワールが歌う歌のなかでも、難易度の高い歌を連日巧みに歌い上げた。しかしトップ娘役はおろか、新人公演でも主役等は演じることはなく、翌2002年に退団。
2003年4月にはNHK『おかあさんといっしょ』の第19代歌のおねえさんへの就任、『笑っていいとも!』(フジテレビ系)へのレギュラー出演などを経て、現在はテレビのバラエティ番組、歌番組、東宝ミュージカル、コンサート等、幅広く精力的に活躍している。
はいだの強みは、なんといっても歌唱力、また宝塚内でトップ路線に乗らなかったことによる、いい意味での“宝塚くささ”の薄さであろうか。歌のおねえさん時代の2006年に番組内で描いた「スプー」の似顔絵の破壊力が一時期話題になったことも。天然キャラクターでありながらも的を射たコメントを発するタレントとして、バラエティ番組への露出が多いのも特徴である。
【第2位:黒木瞳】大地真央を相手にトップ娘役まで極めたものの、“宝塚くささ”の薄さが最大の魅力
1960年、福岡県黒木町(当時)生まれの60歳、身長163cm、ポエムカンパニーリミテッド所属。
1981年、67期として入団。月組に配属され、史上最速である研究科2年でトップ娘役に就任(1982~1985年)。相手役は大地真央であった。ブロードウェイ・ミュージカル『ガイズ&ドールズ』等の舞台に出演し、1985年に退団。退団後は映画、テレビドラマ、歌番組司会、バラエティ番組、CM……と、映像媒体で目にしない日はないといっても過言でないほどの活躍を見せている。
一方で、舞台にも出演を重ねている。筆者が『私のダーリン』(2013年)という黒木主演の舞台を観劇した際には、タップダンスの第一人者である玉野和紀と共に実に軽やかにタップダンスを踊っており、「あれだけテレビに出ている人が、タップダンスなんていつ練習しているんだ!」と驚かされた記憶がある。黒木の強みは、このタップダンスに象徴されるように、たゆまぬ努力を惜しまない点にあるのだろう。黒木は3位のはいだとは反対に、トップ娘役まで極めたものの、宝塚くささが薄い。宝塚出身であることを知らずにファンになる方もいるようだ。また年をとっても変わらない清純な雰囲気も黒木の強みである。
【第1位:八千草薫】寺山修司『田園に死す』における気高き美しさ、「日本のお母さん」としても活躍
1931年、大阪府生まれ、88歳で没。公称身長は154cm、所属事務所は柊企画であった。
1947年、34期として入団。入団当初は三枚目的な役柄で人気を得ていったが、1952年に白薔薇のプリンス・春日野八千代主演の『源氏物語』にて若紫を演じて話題になり、正統派娘役としての地位を確立した。在団中に東宝映画にも出演したが、1957年に退団。退団後は2019年に亡くなるまで、半世紀以上途切れることなくテレビドラマや映画に出演し続け、映画に関する受賞歴も多い。
若い頃には「お嫁さんにしたい有名人」で首位に輝き、年を重ねてからは「日本のお母さん」として愛されるなど、年をとることにあらがわず、その時々での自然体の魅力を振りまき続けた。寺山修司の代表作である映画『田園に死す』(1974年)では、作品中に漂うアングラな雰囲気のなか、ひとり清逸な美しさを保っていた八千草が印象的であった。メジャーな映画・舞台・ドラマ等にまんべんなくかつ長期的に出演し続けていたことから、堂々の1位とした。
【番外編:星蘭ひとみ】三浦春馬の遺作で共演、『おちょやん』でもその美貌が話題になった逸材
東京都港区生まれ、身長163cm。
2015年、101期として入団、星組配属。2017年『スカーレット・ピンパーネル』では、重要人物であるルイ・シャルル役に抜擢、注目を集める。その美貌から「宝塚のオードリー・ヘップバーン」といわれ(実際に宝塚歌劇団の公式機関誌「宝塚GRAPH」2019年11月号には映画『ティファニーで朝食を』のポスター写真を模したと思しき姿でポートレートが掲載)、新人公演での主演を重ね、スター路線に乗ったと思いきや、2019年に専科に異動、映像分野を中心に活躍していくことが発表された。
2020年9月クールのドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』(TBS系)に、本作が遺作となった三浦春馬演じる猿渡慶太の元恋人役で出演したが、2020年11月に宝塚を退団。その後は2021年にNHK連続テレビ小説『おちょやん』32話に出演、その美貌から、出演時にはツイッターで「星蘭ひとみ」が一時トレンド入りした。退団後まだ日が浅く、何もかもが未知数ではありながら、その美貌と昨今の話題性から、番外編でのランクインとした。個人的には、その美貌をもっと活かすならば是非演技力をさらに高めていただきたいと思う。そうすれば1位にランクインした八千草のような、日本を代表する女優に育つことも夢ではないと思われるからである。
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以上、宝塚娘役OGを、僭越ながら勝手にランキングさせていただいた。自らの立ち位置を的確に理解できている点、歌唱力や演技力といった一芸に秀でている点等が、活躍の理由だろう。宝塚時代には、絶対に主役を演じることができない運命であった娘役という立場を経たからこその、芸能界での処世術ともいえよう。これからも、より多くの宝塚娘役OGが自らの強みを活かし、活躍する姿を見てみたいものである。