マリエ司会のフジ特番に出演のピエール瀧、徳井義実、カラテカ入江…芸能界の懲りない面々

　18歳の頃に島田紳助から肉体関係を強要されたことを告発したマリエ（33）が、日本で多くのバラエティ番組やCMなどに出演していたのは2000年代後半の数年間である。

　マリエは1987年6月20日生まれなので、18歳だったのは2005年6月からの1年間。まさにタレントとして売り出し中の時期だ。なお、誘いを断ったことで彼女は『世界バリバリ★バリュー』（TBS系）など島田紳助が司会を担当する番組に出演できなくなったという。

　証言が事実ならば……マリエは芸能界のダークサイドに毅然と「NO」を突きつけたことになる。

　ところでそんな彼女が、のちに薬物、脱税、ゲス不倫、反社、恫喝、といったキーワードにかかわることとなるブラックな面々がズラリと揃った番組のMCを担当していたのをご存じだろうか？　番組タイトルを、『アパッチナイトフジ』という。

昭和の成功番組の二番煎じを繰り返す、過去の栄光から脱却できないフジテレビが生んだ“あだ花”

『アパッチナイトフジ』。40代後半以上の方なら類似したタイトルの番組をご記憶かもしれない。 視聴率面で絶頂期にあった80年代のフジテレビは、土曜深夜に『オールナイトフジ』という、エロ要素も加味した長時間の情報バラエティ番組を放送していた（1983年～）。この番組は、MC陣のほかに一般公募の女子大生集団「オールナイターズ」が、レポーター、コーナーMC、ゲームの参加者などを務めることが大きなウリだった（女子大生以外がメンバーだった時期もある）。オールナイターズは常に人員の新陳代謝がある形式で、一時は一部メンバーのアイドル的な人気が加熱し、歌手デビュー、写真集発売、コンサート開催、さらには主演ドラマがゴールデンタイムで放送されるまでになる。当時の「女子大生ブーム」の中心に位置する存在だといえた。

　そして、その『オールナイトフジ』のスタッフが、番組フォーマットを夕方の帯番組向けにアレンジし、女子大生ではなく主に女子高校生の集団を出演させてスタートさせたのが『夕やけニャンニャン』（1985年〜）だ。この“主に女子高校生の集団”こそ、社会現象的な人気を獲得したおニャン子クラブである。

『夕やけニャンニャン』は1987年に、『オールナイトフジ』は1991年に終了しているが、フジテレビはその後も2つの成功体験を何度もトレースし、二匹目、三匹目のドジョウを狙っていく。『夕やけニャンニャン』の類似番組には、『パラダイスGoGo!!』（1989年）、『DAIBAッテキ!!』（1998年）、『アイドリング!!!』（2006年／フジテレビ系CSチャンネルで放送）がある。

　一方、『オールナイトフジ』のフォーマットを踏襲した番組には、『殿様のフェロモン』（1993年）、『オールナイトフジ・リターンズ』（1994年）があった。そして『アパッチナイトフジ』も、同じ流れで企画されたものだ。そこには、「オールナイターズ」ならぬ「アパッチナイターズ」が出演していた。

番組名はフジテレビ日枝元社長の命名か…放送時間はなんと4時間弱の長丁場

　ところで、『アパッチナイトフジ』の“アパッチ”とはどんな意味か？ その出典は、日枝久フジサンケイグループ代表（元フジテレビ社長・会長）が、編成局長時代に発した言葉だとか。日枝は同局のプロデューサーたちに、かつてゲリラ的な戦法を得意としたとされる北アメリカの先住民族のひとつの名称を用い、「もっとアパッチなことを考えろ！」と叱咤したことがあった。そして、同局の石田弘プロデューサーのそれに対する答えが『オールナイトフジ』だった……という逸話がある。つまり『アパッチナイトフジ』というのは、その原点回帰を目指した番組タイトルだったのである。

『アパッチナイトフジ』はレギュラー番組ではなく、2007年3月30日の深夜25時5分から29時まで、4時間弱に渡って放送された単発の特番だ。マリエのほか、道端ジェシカ、ジョジィーという3名のハーフ女性モデルがMCに起用された。「今、この人に会いたい！」というテーマを掲げ、ミュージシャン、お笑い芸人、グラビアアイドル、クリエイターなど多様なジャンルで話題の人物が登場するというコンセプトだった。

ピエール瀧、徳井義実、“闇営業”入江慎也が勢揃い、ゲス不倫＆シモネタメール事件のイケメンアナも

『アパッチナイトフジ』が取り上げた“話題の人物”には、当時は「SAKEROCK」というバンドで活動していた今をときめく星野源もいた。しかし他の出演者のなかに、その後、芸能界のダークサイドを白日のもとに晒した人物がズラリと揃っていたのである。

　まず、3人の女性MCとは別に司会格として、すでに俳優、タレントとして売れっ子だったピエール瀧が出ていた。瀧は2019年コカイン（麻薬）を使用したとして麻薬取締法違反容疑で逮捕・起訴されている。『アパッチナイトフジ』でマリエと共演時の瀧は39歳。逮捕時に「20代の頃からコカインや大麻を使用していた」と認めていることから、すでに違法行為に及んでいたことになる。

　進行サポート役として、品川庄司とともに出ていたのがお笑いコンビのチュートリアルだ。そのメンバー・徳井義実は、2019年10月に東京国税局に3年分の法人所得の約1億1800万円が無申告であると指摘されていたことから芸能活動自粛を余儀なくされた。現在は芸能活動を再開しているが、スポンサーから歓迎されない存在であることは確かだろう。

　さらに、トータルで進行を補助する役割でフジテレビのアナウンサーが1名配置された。当時、イケメンアナとして多くの番組に出演していた渡辺和洋である。この渡辺は『アパッチナイトフジ』の放送翌年に問題人物としてクローズアップされる。彼は、自らが審査員を務めたフジテレビ主催のオーディションに参加した女性との不倫関係が発覚。しかも、その女性に送っていた品性下劣なメールの文章が流出し、社会的な信頼を喪失するのだった。しばらく表舞台から消えた期間を経て、やがてテレビ画面に復帰した渡辺だが、局アナとしてメインストリームから外れた状況が続いている。

『アパッチナイトフジ』には、オードリー、平成ノブシコブシなど当時の若手お笑い芸人が数多く出演していたが、そのなかにも、不祥事を起こして芸能界を去った人物が含まれている。タレントと反社会的なグループとの間に、いわゆる闇営業の仲介を行ったとされるカラテカの入江慎也だ。マリエが告発した島田紳助は反社会勢力との交友関係が問題視され引退することになったが、反社とつながりのあった入江もまた、一発レッドカードで所属事務所から契約を解除されている。

タピオカ店恫喝騒ぎで引退の木下優樹菜も出演、果たして芸能界は健全なところなのか？

『アパッチナイトフジ』に出ていたお騒がせ人物は、男性だけに限らない。当時「三愛水着イメージガール」で、のちに島田紳助司会の番組『クイズ！ ヘキサゴン2』への出演をきっかけに人気タレントとなった木下優樹菜が「キャンギャル軍団」の一員として出演していたのだ。彼女は2019年に実姉が勤務していたタピオカドリンク店の経営者に恫喝メッセージをたびたび送付していたことが発覚し、活動自粛に追い込まれる。そして、2020年夏に活動再開を宣言したものの、そのわずか5日後に一転して芸能界引退を発表した。あまりに不可解すぎるタイミングでの引退発表は、事務所がかばいきれない何かがあったことを想像させるものだった。なお、2021年になってアパレルブランドのモデルを務めた木下は『FLASH』（光文社）の取材にこたえ、自らの本格的な芸能活動再開、島田紳助からの肉体関係の強要経験について否定した。

　マリエの告発について、各テレビ局、ほとんどの芸能人がスルーするなかで、タレントの武井壮は自身のYouTubeチャンネルで 「そんなことやったら多分すぐ告発されて終わるでしょ。だから芸能界ってそんなところだって言われても、全然そんなところじゃないっすよ。すごい健全なところ」と発言している。

　しかし、仮に枕営業の常態化はないとしても、『アパッチナイトフジ』の一部出演者たちの所業を俯瞰したときに、果たして“芸能界は健全なところ”と言い切れるだろうか？

フジは懲りずに『オールナイトフジ』類似番組を放送も、2000年代に「女子大生ブーム」を起こせず

　なお、『アパッチナイトフジ』はレギュラー番組化することがなかったが、それでもフジテレビは、『オールナイトフジ』の再現を諦めなかった。

　2008年12月23日に特番『ミスキャンナイトフジ (仮)』を放送。2009年4月からは同番組をケンドーコバヤシの総合司会で『キャンパスナイトフジ』としてレギュラー化させた。そこには、オールナイターズに相当する「キャンパスナイターズ」なる女子大生集団が出演していたが、大きな波を起こすことはできず、番組は1年で終了している。