中谷美紀、玉木宏らが出演する連続テレビドラマ『あなたには帰る家がある』(TBS系)第1話が13日に放送され、平均視聴率は9.3%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)だった。直木賞作家の山本文緒が1994年に著した同名の小説をもとに、大河ドラマ『花燃ゆ』(NHK)や『1リットルの涙』(フジテレビ系)などを手掛けた大島里美が脚本を、『S -最後の警官-』『カンナさーん!』(ともにTBS系)などに携わった平野俊一が演出を、それぞれ担当するという体制だ。
『花燃ゆ』の脚本家による作品という時点で、不安を覚えずにいられない視聴者も少なくないのではないかと思う。同作は、全50回の平均視聴率が12.0%で、2012年の『平清盛』と並んで、大河ドラマ史上最低である。プロデューサーなどNHK側の問題も多々あっただろうし、脚本家だけのせいにするつもりもないが、一般的に『花燃ゆ』は、“井上真央が、何かといえばおにぎりを握っていたドラマ”という印象しか持たれていない。イケメン俳優をそろえ、いくらでもおもしろくできそうな幕末を題材にしながら、それらを生かせず、大島氏は脚本担当を事実上途中降板したといういきさつがある。
筆者も少しばかりの不安を抱えつつ初回の放送を見守ったが、“なんとも評価が難しい作品”というのが正直な感想だ。おもしろくなりそうな要素がいくつかある一方で、方向性が定まっていないような散漫な印象も受けた。かといって、初回で見切りを付けるほど駄作感が漂っているわけでもないので、3話あたりまでにしっかりと軸を提示することができれば、2ケタ台の視聴率は取れるのではないかと予想する。
おもしろくなりそうな要素の筆頭は、主人公の夫・佐藤秀明(玉木宏)と道ならぬ関係に陥る主婦・茄子田綾子(木村多江)の存在だ。木村といえば、「幸薄い系女優」としてドラマや映画に引っ張りだこだが、今作ではそれを逆手に取ったように「私、幸せです」との台詞が飛び出した。突然の大雨に見舞われ、たまたま遭遇した秀明に乗せてもらった車中での出来事だ。どこかうつろな視線で「幸せです」と断言した綾子は、一拍置いて伏し目がちになり、「でも……、寂しい」とつぶやいた。
これに胸を射抜かれた秀明は、後先も考えずに彼女をホテルに連れ込むわけだが、そんな状況に慣れていない彼は、部屋のドアにカードキーを差し込むのに手間取ってしまう。必要以上に手間取っていることから見て、「やっぱりやめましょう」と彼女に言われるのを待っているのだろう。ところが、綾子はそんな秀明の肩にそっと手を当てて優しくキスをした。こうなっては秀明もたまらず、部屋に入るなりベッドに激しく綾子を押し倒した。
この綾子、家庭ではやたらと高圧的な夫(ユースケ・サンタマリア)と、嫁を召使いのように見ている義理の両親に囲まれて暮らしており、典型的な「不幸な主婦」に見える。だが、自分で「幸せです」と言う通り、悲壮感はまったくない。視聴者としては「不幸です」と言ってくれたほうが納得できるのだが、おそらく本心から「幸せです」と言っているところに底知れぬ不気味さを感じる。
また、家庭での様子を見ると、ひたすらおとなしくて従順な妻に見えるが、秀明を落とした手管はかなり手慣れている。「運命の人」に出会ってフラフラっと不倫に走ったというわけではなく、もしかしたら男を次々に誘惑して関係を持つのが趣味なのだろうか。今年1~3月に放送された『ホリデイラブ』(テレビ朝日系)では、他人の夫を運命の相手と思い込んだストーカー気質の女を松本まりかが怪演して話題を集めたが、今作の木村多江も展開次第では「本当にヤバい魔性の女」として注目を浴びるかもしれない。
綾子の夫・太郎を演じるユースケも、今後の展開次第でいくらでもおもしろくなりそうなキャラクターだ。常に上から目線でねちっこく、ひたすら気持ち悪いが、「モラハラ男」という単純な人物で終わってはもったいない。たとえば、太郎には妻が他人と関係を持つのを知って興奮する「寝取られ属性」があり、そもそも綾子が秀明を誘惑したのは太郎の指示だった、というくらいのぶっ飛んだ展開だったらおもしろい。
一方、中谷演じる佐藤真弓と、玉木演じる秀明が繰り広げる家庭の話は退屈だ。ドラマ公式サイトには「100人超の女性に『オンナの本音』をリサーチ」したとあり、確かに夫婦の行き違いから生まれる家庭の不満がリアルに描かれているとは思うものの、それが裏目に出たのか、「そういうこともあるよね」といった感想しか持てない。平凡な家庭に降ってわいた夫婦の危機を、すんでのところでかわしていくという話かと思ったら、結局安易に不倫ストーリーに流れたのも残念だった。
ドラマ公式サイトには、「物語のラストには、温かな奇跡が用意される予定だ」とある。不倫で危機に陥った夫婦がそれを乗り越えて再生するという筋立てだとすれば、前述の『ホリデイラブ』と似通っていることになるが、果たして予想を上回る展開が待っているのだろうか。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)