6月15日に最終回を迎える連続ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(フジテレビ系)。松たか子が演じるバツ3の主人公・大豆田とわ子と、そんな彼女に未練たっぷりな3人の元夫(松田龍平、岡田将生、角田晃広)が織りなすラブコメドラマだが、視聴率は5~6%台(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を推移し、苦戦を強いられている。しかしネット上ではすこぶる反響がよく、業界内では「今クールでベストの名作ドラマ」との声も上がるほど。
いったい本作は、何がそんなに一部ファンから評価されているのだろうか。あるテレビ誌の編集者はこう分析する。
「まず、いわずもがなですが坂元裕二さん脚本によるところが非常に大きい。2018年に『anone』(日本テレビ系、主演/広瀬すず)を書き終えた後に、『しばらくは連ドラをお休みして舞台や映画に専念する』と宣言した坂元さんが、約3年ぶりに書き下ろしたのが本作。当然、業界内の注目度も高かったのですが、視聴率的に苦戦したのは、やはり脚本家の名前だけでは視聴率が取れない時代だということでしょうか。
とはいえ、3年ぶりの坂元脚本はさすがの一言で、軽妙な会話劇と愛すべきキャラクター設定、そして予想できないほどのウェルメイドな展開は、まさに絶賛されてしかるべきレベルの傑作。『東京ラブストーリー』で坂元さんが30%超の視聴率を獲得したのはちょうど30年前の出来事ですが、それから30年たっても、その筆はまったくサビれてませんし、むしろ進化している。彼が昔ほど連ドラ脚本を量産しなくなった今だからこそ、非常に価値の高い作品だと思います。各局のプロデューサーや人気俳優たちがこぞって坂元脚本を望むのも、むべなるかなというものです」
完成度の高い坂元裕二脚本を、飄々と演じ切る松たか子という女優
ドラマの完成度は高いはずなのに低視聴率――。それは、「主演・松たか子」によるところも大きいのだろうか?
「確かに、『松たか子さんでラブコメ』という企画に、世間がそれほどのヒキを感じないというのもわからないではない。しかし、ではほかにどの女優なら成立したのかと考えても、松さんしかあり得ないんですよね。それぐらい、大豆田とわ子を演じる彼女はとてもチャーミングだし、彼女を起点に、坂元脚本がしっかり躍動しています。
バツ3でシングルマザー、仕事も大変だし元夫を含む男たちも言い寄ってくる。決して“等身大の女性”を描く物語ではありませんが、彼女のリアクションや悩みはとてもリアリティがあふれている。そこにエスプリがこれでもかというぐらい効きまくるので、ラブコメというより、もはやテンポのいいフランス映画のよう。映画『アメリ』のような世界観を、うまいこと“働く女性モノ”に落とし込んであり、“技アリ”としかいいようのない脚本。そして、その完成度の高い脚本を、松たか子という女優が飄々と演じ切れていることもすごい。なので、松さんじゃないとダメなんです」(前出・テレビ誌編集者)
菅田将暉主演『花束みたいな恋をした』でわかった、坂元裕二脚本の“底力”
では、最終回は是が非でも観るべきか? 初回から欠かさず観ていたという、ある映画配給会社の関係者はこう語る。
「私も坂元裕二さんの脚本には驚かされっぱなしで、もうワンクールは見続けたいと思うほど、ハマってます。『大豆田とわ子と三人の元夫』は毎回、冒頭にその回で何が起こるのかのダイジェストを見せ、それを視聴者が確認していくという構成なのですが、そういった仕掛けもお見事。YouTubeでいうところのサムネイルというか、『ネット動画全盛時代に連ドラが観られるにはどうすればよいのか』という命題のひとつの解がここにあり、きわめて効果的です。そして、冒頭でダイジェストを見せられても、それで「今回はこういう感じか」とはならず、毎回、最後には視聴者を“まったく違うところ”に連れていってくれるのです。
今まで観ていなかった方にも、ぜひ動画サブスクで1話目から観ていただきたいところなのですが、仮に最終回から観ても、本作はきっとおもしろいはず。いろんな仕掛けが満載のドラマなので、ネタバレなど気にしないで楽しめると思いますよ。
今年1月、コロナ禍で映画館が封鎖されるなかで公開が始まった『花束みたいな恋をした』(主演:菅田将暉・有村架純、脚本:坂元裕二)は、興行収入37億円を超えるほどの大ヒットを記録。菅田さんが坂元さんの脚本を熱望して実現したという企画で、実際に菅田さんはこの脚本を大絶賛したといいます。坂元さんのオリジナル脚本にハマる30代40代の女性はちゃんとお金を持ってる層なので、今後も坂元さんオリジナルの脚本は映画界で争奪戦が繰り広げられるはず。つまり、連ドラで視聴率が低くとも、彼の脚本の価値はまったく下がっていないといえるわけです」
視聴率に左右されない人気脚本家・坂元裕二が手がける『大豆田とわ子と三人の元夫』。今まで観たことがない読者は、最終回からチェックしてみるのも一興かもしれない。