“東京発の笑い”が詰まった深夜番組『ゴッドタン』(2005年に放送開始)の生みの親であり、『オールナイトニッポン0』でラジオパーソナリティーも務める佐久間宣行氏。今年3月末には22年間務めたテレビ東京を退社し、45歳にしてフリーのテレビ演出家となったわけだが、ラジオパーソナリティーに加えて自身のYouTubeでは出演者も兼ね、もはやテレビクリエイターの枠を飛び出しつつある。
そんなYouTubeチャンネル『佐久間宣行のNobrockTV』は、開始後わずか2カ月あまりで登録者数は20万人に届こうかという勢い。『ゴッドタン』や『あちこちオードリー』など、テレ東時代に手掛けた番組にも引き続き携わりながら、エンタメ界を縦横無尽に駆け回る佐久間氏に今、熱い注目が集まっている。
フリーになってもとどまることを知らないこの快進撃を、お笑い業界に詳しいあるスポーツ紙記者はこう語る。
「“深夜のお笑い”をひたむきに作り続け、『低予算でも面白ければ熱狂的なファンを生む』という、今のテレビ東京バラエティを作り上げたといっても過言ではない人。このまま社内にとどまり続ければ、管理職どころか役員、社長という出世コースさえあったと思うのですが、やはり『生涯現場にい続けたい』という思いが強く、退社を決めたようです。あと、よくいわれる通り、テレ東の給料は在京キー局のなかでも最低ではあるので、稼げるうちに大きく稼いでおきたいという思いも当然あったでしょうね。
佐久間さんは長くテレ東の深夜番組を作り続けてきたため、低予算の企画や演出が本当に得意。自身のYouTubeチャンネルをたった2か月で登録者数20万人近くまで増やすなんて、彼にすればお手の物だったのかもしれません。人気芸人との対談だけでなく、『お笑い知識ゼロ人間に笑いが説明できるか選手権』や『バンドの曲紹介みたいにネタする-1GP』などは、そのまま『ゴッドタン』などでも放送できるようなクオリティでしたよね。低予算とはいえ、テレビサイズの規模感でそれなりにお金をかけてるのは垣間見えたので、ひょっとしたら今はまだ佐久間さんが自腹を切っている部分もあるのかもしれません。しかしこのまま人気チャンネルとなっていけば、YouTubeだけでも大儲けできそうですね。
また、自身がラジオ好きだということもあって、ラジオでのトークも抜群にうまい。リスナーもしっかりついていて、今年1月に行った配信イベント(『佐久間宣行のオールナイトニッポン0 リスナー小感謝祭2021~Believe~』)は、1万6000人以上が1800円の有料チケットを購入。これだけで3000万円近い売り上げになったそうです。こういった一連の流れを見ているだけでも、テレビ局のイチ社員として終わるにはあまりにももったいない逸材だと、誰もが思いますよね」
才能を見出す目利き力、低予算でも諦めない執着力
元テレビ局員がフリーとなり、番組の企画や演出だけでなく、みずから演者となりラジオのパーソナリティーまで請け負うとは、まさに異色の存在。フリーになっても順風満帆に仕事を増やし続ける秘訣とはいったいなんなのなんだろうか?
「佐久間さんは、多忙を極めたAD時代から、時間を見つけてはお笑いのインディーズライブや小劇場に通いつめ、面白い芸人を発掘してきた目利き。また芸人だけでなく、大人計画をはじめ、笑いを得意とする劇団を綿密にリサーチし、小劇場のお笑いの方程式をテレビに持ち込んだことでも知られています。
テレ東という低予算が当たり前のテレビ局において、自身の目利き力に裏付けられた企画を量産し、結果的に『ゴッドタン』から『キス我慢選手権』や『マジ歌選手権』などを“発明”。『キス我慢』は2013年に映画にもなり、マジ歌ライブは今もさいたまスーパーアリーナでライブをやると即完売するほどの人気企画に。低予算でもめげずにゼロから開始し、ここまでの人気企画に育て上げヒットさせてきた執念の人。この、オリジナリティと執着力の両輪こそが、佐久間さんの快進撃の秘訣だと思いますね」(前出・スポーツ紙記者)
「失敗しても怒られない」というテレビ東京の社風
抜群の目利き力で数々の芸人を発掘し、さまざまな人気企画をヒットさせてきた佐久間氏。彼が成功した要因のひとつとして、「テレビ東京で育ったから」を挙げるのは、ある放送作家だ。
「例えばフジテレビにはバラエティ制作の先人がたくさんいますが、佐久間さんが入社した当時のテレ東には、そんな先人は一切いなかった。そのため、『失敗しても怒られない』という社風がテレ東にはあると佐久間さん自ら語っています。ほかの民放局であれば、ひとつの番組を立ち上げるのにもつぶすのにも相応の時間と労力がかかるので、若手がこんなに多くの番組を立ち上げるなんて、なかなか難しかったかもしれないですね。
あと、2016年に『キングちゃん』(『NEO決戦 バラエティ キングちゃん』)という番組を立ち上げ、今をときめく千鳥に在京キー局で初めてMCをやらせたのも佐久間さん。この番組で千鳥の実力を民放各局が知ることになり、いろんなテレビ局が千鳥の番組を企画し始めるきっかけとなっていった。『ゴッドタン』もそうですが、『佐久間さんの番組でハマったら売れる』という認識が芸人の間では強く、だから誰もが佐久間さんの番組への出演を欲してしまう。結果、みんな本気で出演しますし、そりゃあ視聴者にとっても面白い番組になるわけですよね」
「生涯現場」にこだわって古巣を飛び出し、抜群の目利き力でエンタメ界を自在に泳ぎ続ける佐久間宣行。お笑い界のみならず、中年男性の新たな成功モデルとして今後も注目を集める存在となるだろう。