もし、日本の人々に「経済力で米国が上か、中国が上か」という問いを行ったとしよう。多くの人々は「米国が上に決まっているではないか」と一笑に付すだろう。
しかし、国際的に見ると必ずしもそうではない。米国情報機関CIAが持つサイト「The World Factbook」のなかに、「guide to country comparison(国際比較のガイド)という項目があり、「GDP (PURCHASING POWER PARITY)」、つまり購買力平価ベースのGDP値が記載されている。
1位:中国 21,140,000,000,000ドル(2016年推定)
2位:EU 19,970,000,000,000ドル(同)
3位:米国 18,560,000,000,000ドル(同)
4位:インド 8,721,000,000,000ドル(同)
5位:日本 4,932,000,000,000ドル(同)
購買力平価ベースで、中国のGDPは米国の上にあることは、国際通貨基金や世界銀行も発表している。発展途上国、ないしそれに準ずる国の通貨の評価は相対的に弱く、経済力の評価に購買力平価ベースが利用されるのである。
米国調査機関Pew Research Centerは「Globally, More Name U.S. Than China as World’s Leading Economic Power(世界的に見ればより多くの国<国民>が米国を中国よりも指導的経済勢力とみなしている)」という標題で報道しているが、各国別に見ると、主要国は今や中国が上との見方をしている。
次に、国別の変化を見てみよう。
【中国を世界トップ経済大国とみなす国民の割合】
※調査対象国、16年、17年
・英国、35%、46%
・ドイツ、30%、41%
・イタリア、32%、40%
・カナダ、42%、42%
・フイリピン、14%、25%
【アメリカを世界トップ経済大国とみなす国民の割合】
※調査対象国、16年、17年
・英国、43%、31%
・ドイツ、34%、24%
・イタリア、43%、40%
・カナダ、42%、32%
・フイリピン、66%、49%
世界全体を見ると、中国が上とみているのは欧州諸国、ロシア、豪州、カナダ。米国が上とみているのは米国、日本、その他アジア、中近東、アフリカ、中南米諸国である。
購買力ベースで比較することの是非をめぐっては議論があろう。しかし、日本では購買力ベースで中国が米国の上になっているという状況を、ほとんどの国民が知らない。政治家も同じであろう。
人それぞれ国の好き嫌いはある。しかし、中国が嫌いであったとしても、その国の力は客観的データで把握する必要がある。今日の日本は、こんな初歩的なこともできない国である。
今年5月、G7、NATO会議でトランプ米大統領と対立したメルケル独首相は、その後、「第二次大戦後築かれた関係はある程度終わった」「我々が他に依存するのは、かなりの程度終わった。我々欧州は、自らの運命を自分の手に掌握しなければならない」と発言しているのは、こうした経済関係の変化を踏まえての発言であろう。
(文=孫崎享/評論家、元外務省国際情報局長)