大幅な引き上げを決めたのが、国内を代表するマンモス校である日本大学と早稲田大学だ。日大は学部平均で7%以上、同様に早稲田も3%以上の値上げに踏み切る。このほか有力どころでは明治、上智、青山学院、慶応、関西なども値上げを行うが、こちらは1~3%未満の値上げにとどめている。
これに対して学費の据え置きを決めたのは、同志社、法政、立教、東洋、東京理科、東海などの各校だ。学費は非課税扱いである一方、教材費、実験費などは増税対象になるため、据え置きを決めた大学は増税に伴う負担増に対して自腹を切ることを決めたわけで、学生の保護者からすればありがたいことだろう。
学費据え置きや微増程度に抑えた有力大学が目立つ中で、日大と早稲田の上げ幅の大きさは目立つ。これも高い知名度と実績を背景にした強気の姿勢、との声も聞かれるが、一方で両校にはいくつか気になる共通項もあるのだ。
ひとつは、いずれも補助金を大幅に減らされている点だ。2012年度の交付額で日大は前年度比11億円削減されて交付額首位から3位になり、早稲田も同2位になったものの同じく8億円あまりを削減されている。交付額上位校の中でも両校の削減率は極めて大きい。交付額を査定する日本私立学校振興・共済事業団は詳細については開示していないが、近年強まっている査定の厳格化に触れたことは確かなのだろう。
●志願者数で不動の首位だった早稲田の苦戦
また両校は、人気のバロメーターである志願者数で、ライバルに後れをとっていることでも共通している。発表のあった今年の志願者数で。日大は4位と西の代表的なマンモス私大である近畿(首位)に水をあけられ、かつては不動の首位だった早稲田も3位と、併願者の多い明治(2位)にここ数年後塵を拝している。
さらに両校の売り物であるマンモス校ならではの多様な学部構成という優位性も、この10年で加速した他の有名大学の学部新設ラッシュによって失われつつある。例えば、文理医薬などすべての学部系統が揃った日大ならではの特色も、東海、近畿、帝京といったスケールメリットを売りにする同系の大学は多く、差別化しづらくなった。早稲田についても学部の改編こそ行ったものの、名門の共立薬科を統合して薬学部を新設した慶応、同じく聖母大学を取り込んで看護学科を新設した上智と、M&A(合併・買収)で人気の学部学科を掌中に入れたライバル校に比べると明らかに動きは鈍い。
興味深いのは、学費値上げによる両校の増収額が、補助金の減少分に近いことだ。日大は10億円、早稲田は数億以上の増収になると見られているが、減少分をほぼ相殺できる。これだけで安易な価格転嫁とは決めつけられないものの、本当に合理化余地はないのか、授業料を納める側としては釈然としないものがあるだろう。
今春、志願者数で初めて首位に立った近畿は、ネット出願割引や紙の出願廃止など、受験生の負担を配慮した入試システムの導入で知られる。もはや有名大学であっても、ブランドにあぐらをかける時代ではない。
(文=島野清志/評論家)