「単なるイビキ」と軽視されがちのSAS。だが治療せずに放置すると、心筋梗塞などの突然死を招くリスクが高くなることは医学的に証明されている。さらに無呼吸による酸素欠乏は一時的な意識の喪失に近い眠気を催し、大惨事を引き起こすこともある。
2012年4月、群馬県藤岡市の関越自動車道で高速ツアーバスが防音壁に衝突し、乗客7人が死亡、38人が重軽傷を負った事故で自動車運転過失致死傷罪に問われた運転手は、裁判で「事故後にSASと診断され、予兆もなく意識を失った」と主張。多くの命が犠牲になる可能性がある、この病気の深刻さを裏付けることとなった。「いびきがうるさい」と指摘された人は、一度は呼吸器科のある病院で泊まりがけの検査を受けるべきなのだ。
だが、問題はその後だ。検査で無呼吸が確認されると、CPAP(シーパップ)という医療機器のレンタルを受け、月1回の診療が義務づけられる。就寝時にCPAPから伸びる鼻マスクを装着することで強制的に空気を送り込んで閉塞状態を解消する、いわば“特効薬”となる治療を継続するわけだ。
30秒の診療で約5000円負担
03年から治療を続けるAさん(仮名)は、医療機器を扱う会社から欧州製のCPAPをレンタルし、月に1回医院に通っている。
Aさんは「血圧を測り、『マスクの調子はいかが?』。これで診療は終わり。診療時間は3分どころか30秒ぐらいだ」と、医院に行くたびに呆れているという。診療明細書を見せてもらうと「再診料76点、外来管理加算52点、経鼻的持続陽圧呼吸療法用治療機器加算1210点、在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料250点」とあり、合計は1588点。1点10円なので医療費は1万5880円かかる計算だ。1年だと約19万円、3割負担で、出費は5万7000円ほどになる。
Aさんは「インターネットで欧米のサイトを見ていたら、自分が使っているのと同じCPAPを見つけた。なんと値段が300米ドルほど。個人輸入すれば2カ月分の医療費でペイできる金額だ」と憤る。我慢ならなくなったAさんは、医院の医者に疑問をぶつけたが、「SASの人はたいてい肥満や生活習慣病を抱えている。毎月1回の診療は、これらの疾病の治療という意味合いがある」と諭されたという。
ある医療機器会社の担当者は「名目上、CPAPの圧力は医師が指導して決めることになっている。指導管理料を医師が、治療器加算をウチがもらう」といい、日本では個人向けの販売が認められていない。
SASを確実に治癒させるにはダイエットが最善策だが、言うまでもなく成功する人は多くない。つまり、現行制度で患者はレンタルしたCPAPの本体価格を上回る医療費を支払うことになり、医者と医療機器会社だけが“ウィンウィン”になる構図が構築されているのだ。
個人ユーザーの多い海外では、出張やキャンプで便利な充電式の超小型CPAPも発売。日本だけの不条理なシステムに気付き、英語のできるSAS患者はネットで個人輸入する人もちらほら出始めているという。
(文=チーム・ヘルスプレス)