元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな発電方式は「自家発電」です。
税務調査での否認項目というのは、売上除外のようなベタなものから、聞いたこともない経費科目や新しくグローバルかつ専門的すぎて、現役を退いたさんきゅう倉田では理解できないものまで、さまざまです。
むかしむかし、払いすぎた電気料金が戻ってきて、確定申告をやり直したら「その処理じゃだめだよ」と言われてしまった事案がありました。確定申告で確定した所得額を変更する方法には、「修正申告」と「更正」があります。納税者が自分で行う場合、所得が増えるときは修正申告で、所得を減らすときは更正になります。
このケースでAさん(仮名)は、支払った電気料金を経費にしていました。そのため、電力会社から戻ってきた電気料金分を、それぞれの年の経費にした電気料金から引いて、つまり、経費を減額して、修正申告をしたのです。「ちゃんとしている」という印象を受けます。
思いがけず入ってきたお金を、「うっかり」あるいは「意図的に」帳簿に載せないなんて、よくあることです。しかも、今回は遡って直すような処理で、今、進行している年分の帳簿ではありません。わざわざ古い帳簿を倉庫や古棚から引っ張り出して、直すのです。電気料金の過大徴収は12年に及んでいて、優しいAさんは一部の還付を放棄しました。概算した過大金額は2億円で、その一部の請求を放棄してあげただけでなく、しなければバレなかったかもしれない修正申告を、わざわざしたのです。
すると、税務署から連絡が来て、「電気料金の還付金は、過去の経費を遡って減らすのではなく、返ってきた今年の収入にしなさい」と、言われてしまいます。そこで、納得のいかないAさんは、争うことにしました。
結果からいうと、Aさんの主張は認められませんでした。電気料金の還付金は、還付された年の収入としなければいけなかったのです。税務署側は、その理由を次のように説明しました。
(1)払い戻しは、払いすぎた電気料金や利息の額ではなく、真の金額に関係ないAさんと電力会社の合意に因るものである
(2)法人は「公正妥当な会計処理の基準」を求められ、原則として「発生主義」を採用している。すると、企業会計上は、遡って経費を減らすのではなく、還付が確定したときの収入にすべきである
(3)「不当利得」と考えられる可能性もあるが、Aさんたちは12年たってからそのことを認識し、合意によって金額を決めたので、不当利得ではなく、新たに発生した会計事実である
※不当利得とは、法律上の原因なしに、他人に損失を及ぼし、他人の財産または労務によって利益を受けること(今回の場合は、電力計量装置の設定の誤りによって、電力会社がAさんに損失を与え、利益を受けていた)。
返金されただけなのに「収入」?
今回、考え方の中心となったのは、正しいとの認識で過大な電気料金を払っていたのであって、前年以前に過大分を取り戻すことは事実上、不可能だったことです。つまり、後から気づかなければ返ってこなかったお金で、気づいたのであれば、気づいたときの収入になる、という考えです。
ただし、異なる意見も裁判官から出ており、今回返ってきた電気料金の処理が難しいものであったことを示しています。簡単に言うと、「電気料金の支払いは過大であったのであるから、過大分は原価に該当せず、経費の過大計上があったといえる。還付された電気料金は今年の収入ではない」みたいな意見でした。
Aさんが行ったように、返ってきたお金を、経費にした電気料金の減額として処理すると、12年分のお金が返ってきていても7年分の修正申告で済みます。しかし、一括で今年の収入として処理すると、延滞税はないものの、総額を収入としなければいけません。結果的には、納税者が負けて損をしてしまいましたが、状況が異なれば納税者有利に傾いたかもしれない事案でした。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)