ビジネスジャーナル > 企業ニュース > 博報堂、アサツーに学ぶ“不況”広告業界復活カギは脱広告業?
NEW
総広告費は4年で2割減、代理店各社の生き残り策を探る

博報堂が歯医者ビジネス?“不況”広告業界復活カギは脱広告業

文=富田眞司/CSN企画代表、恵比寿企画塾塾長
【この記事のキーワード】, ,

博報堂が歯医者ビジネス?“不況”広告業界復活カギは脱広告業の画像12011年テレビCM最多契約タレントのAKB48。(「日清食品HP」より)
広告の役割が減少

 かつて、人気業種のひとつであった広告業界が、いま厳しい状況にある。

 その理由のひとつは、市場が成熟化し、広告の必要性が低下していることだ。

 広告の大きな目的は3つある。ひとつ目が「商品やサービスの知名度、認知度を高めること」、2つ目が「ブランドイメージづくり」、3つ目が「販売を目的としたもの(セール告知や通販など)」だ。

 昭和30〜40年代の日本の高度成長期には、市場が拡大していたため、新商品を告知すれば売れた。「商品告知としての広告の役割」が大きかったが、市場が成熟化すると、欲しいものが少なくなり、商品告知/広告をしても売れなくなる。つまり、広告のひとつ目の目的が果たせなくなりつつある。

 かつて生活者の購買モデル「AIDMA(アイドマ)の法則」があった。この法則は、消費者の心理と行動を説明したモデルで、

 ・アテンション:注意を引く
 ・インタレスト:興味をもつ
 ・デザイア:欲求をもつ
 ・メモリー:記憶する
 ・アクション:行動、購買する

の頭文字から来ている。

 従来では、生活者にアテンションを与え、興味を抱かせ購買行動に移させることで、多くの商品を販売できた。第1〜第2ステップであるアテンション、インタレストは、広告による商品訴求が重要な役割であった。しかし、前述のような成熟社会になり、広告の役割が少なくなったことで、出稿自体が減少しているのだ。

マスメディアの地盤沈下

 マス広告減少のもうひとつ理由が、インターネット利用の拡大だ。

 テレビや新聞などのマスメディアを大量に使って認知度を高める手法が、インターネットの普及により、マス広告を使用しなくても実現できるようになったからだ。

 もちろん、マス広告とインターネット活用では、コミュニケーションの方法が違うものの、インターネットからの情報提供や広告によって、より少ない費用で生活者に情報を伝達することができるようになった。

 今やインターネットは、高齢者などを除くとほとんどの人が使っている。さらに、ケータイの普及などで、若者のテレビ離れが進んでいる。かつてほとんどの家庭で購読されていた新聞も、もはや24%の人が購読していない(2011年新聞公正取引協議会の調査による)。

 また、インターネットの登場で、生活者の購買モデルも「AIDMAの法則」から「AISAS(アイサス)の法則」へと変わり、

 ・サーチ:調べる
 ・シェア:情報を共有する

が入ってきた。興味を持った商品はインターネットで調べ、購買した後は情報を共有するような時代となったのだ。

総広告費の推移が示す厳しい現実

 マス広告を使う知名・認知の低下やインターネットの浸透で、マス広告出稿量が減少し、広告業界の経営は厳しい状況にある。

 ちなみに、日本の総広告費は07年に7兆円を突破し、過去最高を記録したが、08年には6.7兆円に減少、さらに、09年から6兆円弱で推移している。11年は5兆7000億円(前年比97.7%)となり、07年比では19.11%減と、2割近い減少となっている(以上、電通調べ)。

 ここ数年は落ち込み幅が減少し、落ち着いてはいるが、新商品告知でのマス広告活用の減少やインターネット活用がさらに増えることで、マス広告の拡大は、今後あまり期待できない。

大きな2つの課題

 そうした厳しい状況の中、広告業界の生き残り策を考察してみよう。

 ひとつ目は、「手数料ビジネスからの脱却」がある。マスメディアを通じた代理店販売手数料ビジネスが限界にあるからだ。マス広告費で得られる高額の代理店手数料が、少ないコストで実現できるインターネット広告では期待できない。

 そのため、必要経費やノウハウに関する費用を請求する「フィー制度」の導入がある。そして、自らが「事業を行うことで、収益を上げる」ビジネス構造が求められている。

 2つ目は、「広告ビジネスからの脱却」である。あまり成長が期待できない広告ビジネスから、新しいビジネスへの展開が必要となっているからだ。

 幸い日本の広告代理店は、高額な広告出稿可能な大手顧客との関係を持っている。そして、社内には、広告を支えるマーケティングやクリエイティブの専門家がいる。これら2つの資産を有効に活用すれば、時代のニーズにマッチした新しいジャンルのビジネスが可能になる。

 例えば、クライアントが抱える課題を解決する「ソリューションビジネス」であり、クライアントの業務を「支援するビジネス」である。

 アサツー・ディ・ケイは、グループ会社間の連携を進め、アニメコンテンツの開発と販売力の強化を図っている。

 また、大広は女性に関する調査データを活用したマーケティングサポートツールを開発し、ビジネス展開を行っている。

生き残るための3つの道

 最後に、広告代理店がサバイブしていくための策を考えてみよう。

1.Web関連ビジネスの強化

 成熟化社会ではあるが、Web関連ビジネスは、これからますます成長する産業である。フェイスブックなどのSNSやスマートフォンを活用したサービスには、多くの広告代理店が参入している。

2.海外ビジネスの展開

 日本は経済成熟期にあるが、中国、インドや東南アジアはこれからの成長が期待できる。日本から海外進出する企業に対して、広告ビジネス、マーケティングなどをサポートするビジネスに活路を見いだせる可能性が高い。

 例えば、新東通信は、中部地方の企業を対象に中国ビジネス支援事業を開始。また、博報堂は上海に「博報堂生活綜研」を設立するなど、大手を中心に、海外でビジネス展開を行っている。

3.支援ビジネスの拡充

 広告会社のクライアントである、行政や企業が抱える課題解決を支援するビジネスを実施する道もあるのではないか。

 博報堂は、「歯科医の経営支援サービス」や「経営者の発言を指南するサービス」「トップ広報コンサルティングサービス」などを行っている。クオラスも、経済産業省「クール・ジャパン」戦略推進事業に参画。

 つまりこれらの広告代理店は、対象や業種を絞った支援ビジネスを展開している。時代変化に対応し、地域活性化や生活者の支援など、支援ビジネスの可能性は大きい。

 これら3つの方向は、単独でもよいが、相互に連動したかたちで、より相乗効果を発揮できるのではないか? これからの広告会社の動きに注目したい。
(文=富田眞司/CSN企画代表、恵比寿企画塾塾長)

富田眞司/CSN企画代表、恵比寿企画塾塾長

富田眞司/CSN企画代表、恵比寿企画塾塾長

名古屋大学卒。マーケティング・プランナー。販促企画、提案営業、シニアマーケティングなどが専門分野。三晃社、野田合板、エムエー、デルフィスなど、広告代理店、企画会社、メーカーの企画・販促・マーケティング部門を経て、2002年にCSN企画を設立、代表に。2013年「日本元気シニア総研」を立ち上げる。講演活動では、企業経営者、マーケティング担当者向けの講演をはじめ、「提案型企画書づくり講座」の講師、企業やシニア向けに「元気シニアマーケティング」に関する講師を務める。

博報堂が歯医者ビジネス?“不況”広告業界復活カギは脱広告業のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!