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「労働基準監督署は働く人の味方ではない」(同署職員)

ハローワーク、労基署、相談コーナーの実態…労働者追い払う?

文=秋山謙一郎/経済ジャーナリスト
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ハローワーク、労基署、相談コーナーの実態…労働者追い払う?の画像1労働基準監督署を管轄する厚生労働省
(「Wikipedia」より)
 ブラック企業経営者の本音について、以前本サイトで紹介したが(『現役ブラック企業社長が、社員を安くこき使う華麗な手口を暴露!』)、ブラック企業に入社してしまった場合、やはり泣き寝入りするしかないのか?

 決してそんなことはない……と思いたい。だが現実はかなり厳しい。今回は、「動いてくれるとブラック企業社員の味方になるが、実際にはなかなか動いてくれない」労働基準監督署(以下、労基署)の実態に迫ってみた。

縦割り行政の壁に阻まれて

 兵庫県に住むAさん(30代後半)は、ハローワークで社員数十人規模の造園会社へ正社員として入社。しかし、ハローワークで掲示されていた求人票と、実際の待遇の隔たりがあまりにも大きかったこと、また社長による社員への暴力、社員への給与遅配など、あまりもひどいブラックぶりに業を煮やし退社するに至った。そんなAさんに話を聞いた。

ーー退職されてから、まずどこへ行かれたのですか?

Aさん(以下、A) ハローワークです。ここで求職票に出ていた条件と実際の待遇があまりにも異なると苦情を申し立てました。

ーーハローワークの担当者は、どのような反応を?

A 担当者によれば、「そもそもハローワークでは違法な内容の求人を受け付けるわけにはいかない。なので企業側がハローワークに掲載できるような条件を示して求人を行うことはある」とのことでした。

ーーでは、ハローワークでは、結局何も対応してくれなかったということですか?

A ええ。一応、事業所名を聞かれただけで、特に対応らしい対応はしてくれませんでした。その代わり兵庫労働局の総合労働相談コーナーか労基署に行って相談すればいいと、そこの電話番号は教えてくれました。

 筆者もいくつかのハローワークに同様の問い合わせを行ったところ、概ね次のような回答が返ってきた。

「ハローワークは職を斡旋するところです。そうした話は承りますが、うちでは対応しかねます。念のため、事業所名と求人番号を教えていただければ、お話は承ります。ですが、労働条件などの苦情申し立ては、労働局の総合労働相談コーナー、もしくは労基署でお願い申し上げます」

 もっともハローワークから企業を紹介されて日が浅いなどの場合は、紹介番号と事業所名を申し出れば、ハローワークのほうから企業へと問い合わせてくれることもあるという。

 しかし、紹介後に就職してからある程度時間がたっている場合は、ハローワークでの対応は、あまり期待できない。やはり労働相談コーナーや労基署などに頼るしかないようだ。

総合労働相談コーナーでも解決せず

 Aさんは、ハローワークの担当者から教わった通り、総合労働相談コーナーに相談した。ここは労基署ではないが、労働局という厚生労働省の出先機関内にあり、同省HPによれば、「労働問題に関するあらゆる分野についての労働者、事業主からのご相談を、専門の相談員が、面談あるいは電話でお受け」してくれるという。

ーー総合労働相談コーナーでは、ハローワークと違い、退職した企業への苦情申し立てを受け付けてくれましたか?

A 話は聞いてくれました。しかし、解決には至りませんでした。

――総合労働相談コーナーでは、どのような話をされたのですか?

A 勤務時間、それから休日、そして社長の暴力体質。あとは結果的にサービス残業となった分の賃金を支払ってほしいと……。

 Aさんが正社員として勤めていた造園会社は、ハローワークの求人票では以下のような条件だった。

【ハローワークの求人票】
勤務時間:朝8時出勤、終業時間は夕方5時。残業あり。
休日:祝祭日休み。完全週休2日制
給与:月給制16万円(月末締めの翌5日払い)
社風:家族的な社風。親身に指導します。

 しかし勤務すると、現実は大きく異なっていた。以下が実際の待遇だ。朝は7時から「自発的」に参加する朝礼があるので、いつも朝6時45分には会社にいるようにしていたという。

【実際の勤務】
勤務時間:朝7時から「自発的」に朝礼に参加。退勤は早くて20時。遅ければ23時もザラ。
休日:祝祭日は「自発的に」出勤。土曜日休みはなし。
給与:月給15万円(月末締めの翌10日から15日払い)、残業代は給与の中の「調整手当」に含まれている。
社風:“家族”だから、多少のことは目をつぶれ。親身な指導だから、つい手が出ることもある。

ーー総合労働コーナーでは、解決となる糸口は見いだせましたか?

A 親身に話は聞いていただけました。しかし、結局は何の解決にもなっていません。例えば労働時間にしても「造園業とか農業の勤務時間は、労働法のそれとは違うかもしれないので、よく調べてから回答する」とか、自発的な朝礼についても「その時点で拒否しなければ認めたことになる」など。また、社長の暴力については「警察に話してください」とのことでした。

ーーハローワークに比べて話は聞いてくれたが、なんの解決にもならなかったということですか?

A 「どうしてもというのなら『労基署に行かれてはどうですか?』」と言われ、最初から労基署に行けばよかったと思いました。

 先ほど同様、筆者もいくつかの総合労働相談コーナーに問い合わせてみたところ、概ね以下のような対応だった。

「労働契約書を交わしているか? その内容と実際の待遇の違いがわかる証拠でもあるか? あなたの言い分もわかる。でも、企業側の言い分も聞かなければならない」

対応しているお役人も「非正規雇用」

 最後に、労基署へ相談に行ったAさんは、事の顛末を担当者に打ち明けた。だが、ここでもAさんが納得いく回答は得られなかった。

ーー労基署では、どのような対応でしたか?

A 総合労働相談コーナーと、ほとんど変わりません。特に何も解決していません。応対そのものは、とても丁寧でした。でも、労基署とは「働く人の味方をするところではない」と言われたことはショックでした。

 同署は、労働基準法をはじめとする労働関係法を、事業所が守っているかどうかを監督する、「労働法の万人」という立場なので、働く人、あるいは労基署に助けを求めてきた国民そのものを守ってくれるところではない、という意味である。そのため働く人が助けを求めて同署に駆け込んだとしても、なかなか思うような対応をしてもらえないことも多々あるというわけだ。

 この労基署に、筆者もA氏と同じ問い合わせを行ってみたところ、結果は「もう一度、企業側とよく話し合ってみてはどうですか?」とのことだった。

 それにしても、なぜハローワーク、総合労働相談センター、労基署と、ほぼ似たような対応になるのだろうか。労働問題に詳しい弁護士は、次のように話す。

「それらの窓口で対応する相談員の多くが、非正規雇用職員だからです。労働問題に関する問い合わせは、日々数多く寄せられている。非正規雇用の職員の中には、そうした数多く寄せられる相談を、『いかに自分のところで押しとどめるか』を仕事だと考えている人もいます。結果、困っている労働者を、役所の担当窓口の水際で追い払うことになる」

 困っている労働者を、非正規雇用の役人が追い払う。それが、“経済先進国”日本の現状だ。
(文=秋山謙一郎/経済ジャーナリスト)

秋山謙一郎/経済ジャーナリスト

秋山謙一郎/経済ジャーナリスト

1971年兵庫県生まれ。経済ジャーナリスト。『友達以上、不倫未満』『弁護士の格差』(ともに朝日新書)、『ブラック企業経営者の本音』(扶桑社新書)など著書多数。週刊ダイヤモンド、ダイヤモンド・オンライン(ともにダイヤモンド社)、現代ビジネス(講談社)などに寄稿。本サイトは発刊時からの執筆メンバー。創価大学教育学部大学院修了という学歴から宗教問題にも詳しい。

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