ある中堅出版社の電子書籍担当者は「国立国会図書館の長尾真館長が08年ごろに提案した、電子図書館構想の私案、俗に言う『長尾構想』が注目されたとき、出版社は安い利用料などに問題があるとして猛反発した。それ以来、出版社と図書館は明確なビジネスモデルを描けていない。なぜならいまは、AmazonやGoogleといった外資の巨人が日本で電子書籍ビジネスを開始し、出版社にとってはこちらが主戦場。図書館は二の次というのが正直なところ」と話す。
さらに、ある出版社の営業担当者は「もともと、専門書や児童書以外の多くの出版社は、図書館を無料貸本屋と揶揄するほど、警戒心をもっている。書店や大手出版社などは、図書館が、書店の売り上げを阻害しているとさえ、みているからだ。電子書籍の時代になって、もし、貸し出しが手軽になり、利用者が増えたら、出版社の経営は立ち行かなくなる危険性もある」と危惧を語る。
現在、電子図書館サービスを実施している秋田県立図書館は、電子書籍2000点を提供しているというが、そのほとんどが商業ベースから外れた本や地域資料である。しかも、そのうち1300点は同館が収集していた江戸・明治期の資料で、アーカイブ化のために同館が電子化したもの。いまオンライン上で売られている電子書籍のほとんどは、図書館で閲覧することができないのだ。
他の電子図書館でも、そうした事情はほとんど変わらないという。その理由は先述のとおりだが、もっと根本的には、電子書籍といわれるものがせいぜい10万点しかなく、そのうち図書館が扱うようなマンガ以外の書籍は約4万点しかない。膨大な手間のかかる著作権処理や電子化の制作コストという壁が、出版社の電子化を遅らせているのだ。
では、公共図書館では、どのようにして電子書籍を貸し出しているのだろうか。秋田県立図書館のケースでは、提供する電子書籍を商業チャネルから外れた年数の経たもの(ディレイド・セールスモデル)に限定し、1人1冊しか借りられない(シングル・ユーザーモデル)というルールを設定している。現在、1日30冊、1カ月で1000冊ほど利用されているという。
電子図書館の提供モデルは、アメリカ図書館協会(ALA)が例示しているもので、上記2つのほかに、決められた貸出回数に達した場合、図書館が再び同じタイトルの電子書籍を購入する「利用回数制限モデル」、実際に図書館まで行かないと借りられない「イン・ライブラリー・チェックアウトモデル」などがある。