一気に電子書籍という市場が広がっているように見えるが、実際はどんな状況なのだろうか?
Kindle=アマゾンの信頼感
まず、楽天koboの評判が芳しくないのは、ハードウェアのせいではない。楽天というサービス会社の失敗だ。詳細を提示しない派手な宣伝で電子書籍初心者ユーザーをかき集めたのに、初心者に不親切な状態でサービスをスタートさせてしまったこと。コンテンツ数がなかなか出揃わないのを、水増しでごまかそうとしたこと。そういう楽天の動きが、ハードウェアとサービスをセットで考えた時のkoboシリーズの評価を下げた。
一方で、Kindleはアマゾンというサービス会社のこれまで勝ち得てきた信頼感によって、かなりの下駄を履いている状態だ。実はコンテンツ数だって、11月現在、koboとほとんど変わらない。サービス開始直後のKindleストア側が、すでに開始から数カ月経過している楽天koboと肩を並べているというのはすごいのかもしれないが、少なくとも「Kindleストアのほうが格段に多くの本を取り扱っている」という状態ではない。
実は12月に入ってから専用端末「Lideo」を発売した「BookLive!」のほうが、ずっとコンテンツ数が多いのだが、こちらはあまり話題にならない。
3者を比べて何が違うのかといえば、やはり運営会社への印象だろう。「BookLive!」を運営するBookLiveについては、コミックを中心に電子書籍に親しんでいる人にとっては馴染みのある会社だが、一般ユーザーからの認知度はそれほど高くないだろう。また、楽天は、悪名を売ってしまった。
ではアマゾンはといえば、日用品から大型家電までなんでも扱っている品揃えや、数百円のものを1つ買うだけでも送料がかからない、早ければ当日か翌日には商品が手に入るという利便性を多くの人が経験している。なんとなく、「アマゾンはすごい、アマゾンは違う」という感覚が一般ユーザの間に広まっている。
電子書籍に関していえば、すでに海外でサービスを提供してきたという実績がある。当初の売れ行きが芳しくなかったからといって、投げ出すということもなさそうだし、物販事業が好調だから電子書籍サービスの不調で会社自体がなくなるという心配もないだろう。
結局、現段階で日本の電子書籍サービスはどこも同程度で、どこかが突出して優れているわけではない。ただ、今後どうなるかと考えた時、サービスを継続してくれそうで、伸びそうなのがアマゾンだというだけではないか?
実はkoboのほうが買い?Kindleは本当に「いい」のか?
では、アマゾンというバックボーンなしで、純粋にKindleの評価を考えてみよう。Kindleのe-ink採用端末である「Kindle Paperwhite」と、楽天koboの新端末「kobo glo」は、見た目のサイズや基本的な機能などはほぼ共通している。Android搭載端末「Kindle Fire」や「Kindle Fire HD」も、ほかの7インチクラスAndoridタブレットと比較して、すばらしい性能を持っているというわけではない。
端末を使ってできることはどうなのか?
Android端末に関しては、基本的にAndroidでできることの大半が機能として備わっているはずだ。Kindleというサービスの枠を超えて、別の電子書籍サービスを利用してもよいのだから、ほかと比較する意味はあまりない。問題は「Kindle Paperwhite」だ。
実はアマゾンが配信する書籍のファイル形式は、アマゾンの独自形式だ。ユーザー自身がテキストファイル等から書籍ファイルをつくることもできるが、それも汎用のEPUBを拡張したmobiという形式で入れ込むことになる。独自端末で使う独自形式というのは、これまで電子書籍の普及を妨げてきた要因の1つだが、アマゾンもそこからは抜け出していない。PDFファイルは読めるが、画像をまとめたzipファイルなどは読めない。
一方、kobo touchなど楽天の端末は、PDFはもちろん、アマゾン用のmobiも、EPUBも読める。公式にサポートされていないものの、JPEG画像をまとめたzipファイルやrarファイルも、拡張子を変更するだけで読める。Kindleよりもずっとおおらかで、汎用的だ。手持ちの本をスキャンする「自炊」ユーザーなら、実はkoboのほうが使いやすい。
Kindleストアは急激にコンテンツ数を伸ばしているが、それでも読みたい本がすぐ見つかるというほどではない。そうした中、「他社サービスの本が読めるのか?」「自炊したものが読めるのか?」という視点で考えると、実は「Kindle Paperwhite」に限っては、それほど「すごい」端末ではないといえるだろう。
しばらくは持久戦が続く見通し
アマゾンは現時点のコンテンツ数でも、専用端末の性能でも、勝利者ではない。ただ、多くの人が将来性を感じている。そしてアマゾン自身も自らの成長を信じている。とりたてて特徴のない「Kindle Fire」や「Kindle Fire HD」がなぜ話題になるのかといえば、同等機種と比べて安価だというのも1つの理由だ。「端末で利益を出さなくてもよい」「後でコンテンツで収益をあげる」と考えられるアマゾンだからこそできる値付けでもある。
しかし他社はどうだろうか?
先々のコンテンツ収益を見込んで、端末を赤字覚悟の値付けで販売し続けられるところばかりではないだろう。昔のように出版社が特定の電子書籍サービスとがっちり組んで、他のサービスでは自社書籍を販売しないという時代ではない。リリースタイミングの差こそあれ、同じ本があちこちで購入できるのが当たり前という時代だ。手持ちコンテンツ数で戦うというのは、どこにとっても苦しい。
どこかで何か、圧倒的高機能な端末が安価で登場するだとか、無料で読める新しい本が数万冊増えるだとか、反アマゾンを御旗にソニー・楽天・シャープがサービスを共通化させるだとか、そういう事件でも起こらない限り持久戦になりそうだ。
1年後振り返った時、今年は電子書籍元年だったといえるのか?
どこが大きなシェアを獲得しているのか?
そして、アマゾンの独自形式が日本における電子書籍のスタンダードになってしまうのか?
今から興味が湧くところである。
(文=エースラッシュ)