ボーカルシリーズ01 初音ミク』
(グッドスマイルカンパニー)
台詞が聞き取れない高速のアップビートを、見事なリズム感とダンスを伴いながら完璧に歌い切る、天才パフォーマー(歌手)。サイリュウムを振り回して、「愛しているよー」と絶叫する、興奮した聴衆……
コンサートとは、非日常を体現するリビドー放出の場であり、それは単なるCDやDVDの鑑賞では得られない、生きた(ライブ)の「場」の共有にこそ、その価値があります。しかし私は、そのコンサートの会場の映像をYouTubeで見ながら、人生最大級の驚愕と恐怖の中にありました。
それが「初音ミク」と私の、最初の出会いでした。
私は、初音ミクについて、かなりの時間をかけて、書籍やインターネットで調べ始めました。そして、いつもの通り「今回もまた面倒くさいものに手を出してしまったなあ……」という後悔の気持でいっぱいです。初音ミクは単なる技術でもなければ、一過性のブームでもない。パラダイムシフトという言葉でも足りず、あえていうのであれば、「コンピュータと人間のインターフェース革命」と表現してもよいのかと思っています。
そもそも、コンピュータというのは、基本的に人間の能力を越えるものではありません。手書きとワープロソフトの差も、ソロバンと計算表ソフトの差も、絵の具とプレゼンテーションソフトの差も、所詮は人間よりもアウトプットが「早い」「安い」「大量」という定量的な差異でしかないのです。
しかし今や、コンピュータのアウトプットそのものが、人間を感動させる時代に突入したのです。これは、まさにコンピュータ側から人間側への、コンテンツの逆流といってもよいかと思います。まさに「インターフェース革命」といっても過言ではないでしょう。
このような、壮大なテーマを書くのは、正直、憂鬱です。
私は、エンジニアですので、「技術」を解説することはできますが、「文化」を解説する経験もスキルもありません。そして「文化」は、取り扱いが面倒な上、その解釈が人間の数だけ存在するからです。
「こりゃ、書き方によっては、カルトなファンに殺されるかもしれんな」と、私はテロの襲撃までも覚悟しています……
前置きが長くなりましたが、今回は2回に分けて、「ボーカロイドと初音ミク」について書かせていただきたいと思います。前編では、「ボーカロイド」初音ミクの定義とそれを実現する技術を、後編では「ボーカロイド」の「How to make(つくり方)」などを、関係者へのインタビュー内容と併せて、ご説明させていただきます。
●「ボーカロイド」の定義とは?
さて、本稿で使用する用語の定義をしておきたいと思いますが、これが結構大変です。
まず、「ボーカロイド」とは、私が調べた限り、現在、以下の3つの意味で使われているようです。
(1)歌唱をつくるソフトウェア名(歌声をつくり出すことができる、ヤマハ株式会社が開発したパソコンソフトの名称)
(2)そのソフトウェアを使って創作された歌
(3)上記(2)の歌を歌うキャラクター