「ミクミクダンス」とは、樋口優さんによって作成され、無料配布されている3次元コンピュータグラフィックソフトウェアで、初音ミクを簡単な操作で描くことを可能としたものです。
「ミクミクダンス」の大きな特徴は、2つあると考えます。
まず1つ目は、「ボーン(骨)処理」という技術。
初音ミクの身体を構成する部分(長い髪の毛や、衣装などの動きも含む)を「ボーン」として、ボーンをつなげることで、初音ミクのポーズをつくるのです。初音ミクの映像を作るユーザは、このボーンを自由自在に動かして、そのポーズをつくります。
要するに、パソコンを使って、「初音ミク人形」でポーズをつくることができる、と考えていただければ概ね正しいと思います。
そして、ここが極めて重要ですが、あなたは初音ミクの絵を「一枚も描く必要がない」のです。「ボーンを動かすだけ」で、初音ミクの静止画像をいくつでもつくり出すことができるのです。ボーンとボーンの接合部(関節部)は、不合理な角度にならないようにあらかじめ制限されており、どのようにボーンを操作しても、「人間らしいポーズ」となるように配慮されています。
おそらく、初音ミクの外観を創作するのに、「これ以上の操作方法は考えられない」であろうと思えるくらいの見事なインターフェースで、とても簡単に初音ミクをディスプレイ上に描くことができます。
2つ目は、「2つ以上の画像を補完して動画(アニメーション)をつくる技術」です。
みなさんもご経験があると思いますが、アニメーションとは、つまるところ「ぱらぱらマンガ」です。アニメーションとするには、最低でも1秒間に10枚、下手をすると30枚の静止画像をつくらなければなりません。1秒間に10枚としても、5分の映像なら、3000枚の画像が必要となります。
私は高校の学園祭の準備で、2分程度のアニメーションの作成を手伝ったことがあります。不眠不休で、セル画(登場人物などの絵を描く透明のプラスチック版)の色づけを手伝っていたのですが、「将来、こんな業界には絶対にかかわるものか」と誓ったものです。
「ミクミクダンス」の偉大な点は、この静止画の枚数を劇的に激減させたことです。代表的な静止画像から、その途中の静止画像を、パソコンが自動的につくってくれるのです。例えば、5分の動画であれば、3秒ごとの静止画像を100枚作成すれば足り(多分使い回しするから、実際はもっと少なくて済むと思います)、残りの2900枚はパソコンが作ってしまうのです。
そして、もはやどのようなアルゴリズムで実現されているのか想像もできませんが、
・ボーン処理だけで、身体は勿論、髪や衣服の状態まで矛盾なく表現する計算処理
・リアルタイムで、カメラ視点から見えない領域を表示しないポリゴン処理
など、3D画像処理の肝となる技術が全部搭載されているこのソフトウェアを、なんと“タダ(無料)”で手に入れることができます。
この業界に身を置いていた私の、直感的な「ミクミクダンス」のコストは、1ライセンス200~500万円です。これを無償で提供していること自体、もはや価格破壊などというレベルではありません。
以上をまとめますと、ソフトウェア「ミクミクダンス」とは、
(1)キャラクターを初音ミク等に限定して、非常に簡単な操作で、初音ミクの映像をつくり出すことができる
(2)基本的な少ない数の静止画像から、動画(アニメーション)をつくり出すことができる
(3)タダ(無料)
ということになります。
<第3の技術:作曲演奏技術>
初音ミクに歌ってもらうためには、当然、「曲」を準備しなければなりません。作曲は1人でもできるかもしれませんが、演奏はピアノソロやギターソロでもない限り、複数の楽器によって行われなければならず、そこには複数の演奏者が必要になります。
そんな「曲」を創作する世界にも、ドラム、ベース、ギター、ピアノ、キーボード、パーカッション、その他のいくつもの楽器をたった1人で作曲して演奏する方法が確立されています。