「ヴァンゆん」のYouTube公式チャンネルより
男女2人組の人気YouTuber「ヴァンゆん」のヴァンビ(男)が先月25日に生配信した動画内で、相方の「ゆん」に事前に知らさないままに、同日内に登録者数250万人を達成したら結婚するという企画を宣言。結局、目標は達成されなかったが、明らかに「ゆん」が困惑している様子を見せていたことから、ヴァンビへの批判が強まっている。
この日の動画では冒頭、ヴァンビが目隠しされた「ゆん」をカメラの前に連れてきて、「始まりました! 登録者250万人達成したら結婚する生配信」とコール。「(カメラが)回ってるのも知らないし」と動揺する「ゆん」を尻目に、ヴァンビは
「厳密に言うと僕らは付き合ってはいません。ただ、ヴァンゆんチャンネルは四捨五入して付き合ってるみたいなものじゃないですか。だから、僕はもうそこを飛ばしても結婚できるなって思ってるわけですよ」
と主張。すると「ゆん」は「断れない状態ですね。わかりました。私、こんなかたちで結婚するのかな」と応じた。
最終的には登録者250万人には届かず、「ゆん」は「公開処刑みたいになってるの、すごく嫌だ」と落ち込んだ様子を見せていたが、なんとも後味が悪くなった内容を受け、動画のコメント欄には以下のようにヴァンビに対し厳しい声が続出する事態となった。
<「断れない環境作り」とか、ハラスメントを自覚しながらの生配信>(原文ママ、以下同)
<視聴者を凄く甘く見てる>
<自分の気持ちも正直に話せない&断れない状況作り出されて無理やり結婚ってまじで頭いってる>
<倫理的にも評判的にも悪いことしかない>
<ゆんちゃんは結婚したくない不安でいっぱいな中必死に空気を壊さないように頑張ってて、YJはお姉ちゃんをダシに使われて怒ってるのに必死に怒りを抑えてて>
<ヴァンビくんは禊とか罰ゲームでこれをチャラにするのは違う気がする>
<こんな地獄な生配信初めて見た>
厳しいYouTuber界の競争
こうした反応を受けてヴァンビは26日、新たな動画を投稿し、白シャツ姿で
「昨日の動画は僕が企画して進めたものであり、すべての責任の所在は僕にある」
「男として相方として配慮に欠ける選択だった」
「僕は『ゆんちゃん』が好きです。男女コンビとしての体裁や、ブランディングを考え、ずっと明言を避けてきました。こんなかたちで言うことになり、申し訳ございません」
と謝罪。一方の「ゆん」も28日に動画を投稿し、
「(チャンネル登録者数の伸びが)ここ数カ月は大きく停滞して。だからこそ大きく年末に仕掛けようとしたヴァンビくんの気持ちは痛いほどわかる」
「そんな状況にまで追い込んでしまった責任の一端は、私にもあります。本当に申し訳ございません」
「結論として私は怒っていないですし、嫌だったとか迷惑だったとかはまったく思っていません」
とヴァンビを擁護した。
企業のPRやブランディングを手掛ける企業のプロデューサーはいう。
「交際申込みネタや公開プロポーズネタは昔からテレビのバラエティ番組でもよくみられるが、今回マズかったのは、当事者としてかかわる動画の一企画であり、さらに視聴者の期待を裏切れないということで『ゆん』が“断れない状況”に置かれ、さらに公衆の面前で結婚という極めてデリケートな問題を突きつけられてしまったという点だろう。動画での『ゆん』の表情を見る限り彼女的には“シャレになっていない”というのが伝わってくるが、それでもヴァンビは意に介さずに一人で暴走してしまっていた感があるのもマズかった。
YouTuberの世界は参入障壁が低いため、ますます競争が激しくなっているということもあり、長くやっていると“ネタ切れ”を起こし、過激な方向に走ってトラブルを起こしてしまうケースも多い。そのため、一部のYouTuberは将来を見据えて、しっかりとしたチームを組んで企業のPR・広告案件を獲得していく方向にシフトしている。企業から1案件を数百万円レベルで請け負って、しっかりと効果を出しているYouTuberも多いが、企画や準備、撮影のためにテレビ制作会社も顔負けなほど寝食を削って激務を続けている例もザラで、世間が抱くイメージほど楽ではない」
今回の「ヴァンゆん」の問題では「ゆん」の言葉からもわかるように、2人の間で紛争に発展することはないと思われるが、一般企業においても酒の席などで部下が上司から結婚や恋愛に関して無遠慮に“追及”され、それがセクハラ・モラハラだとして問題となるケースは少なくない。
もし仮に今回と同様のケースで女性側が精神的な苦痛を訴えて男子側に賠償請求などを行った場合、認められる可能性はあるのだろうか。山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士は次のように解説する。
マリッジハラスメント、告白ハラスメント
この問題、最近、マリッジハラスメントや告白ハラスメントといわれているものですね。なんでもかんでも“ハラスメント”をつくり出すのはどうかとは思いますが、確かに、好きでもなく、さらにはそんなに話をしたこともない人から、突然、その人にとっては“玉砕”覚悟で「好きです」「結婚してください」と言われても、迷惑以外のなにものでもありません。
昔々『ねるとん紅鯨団』(フジテレビ系)という、今でいうお見合いパーティーの番組がありましたが、番組の都合上、男性側が女性側に告白をしなければならないので、ほとんど話をしていない男性から“玉砕”覚悟で「付き合ってください」と言われても、迷惑すぎる話であったのと同じでしょう(知らない人はググってね)。
さて、こういうハラスメントですが、法律的には「受忍限度」を超えた場合に、精神的な損害賠償の対象となります。要するに、一般の人であれば我慢できる程度を超えた精神的な苦痛を与えられた場合、損害賠償を請求できるということです。この「受忍限度」とは、騒音問題や、匂いの問題などの判断基準として使われたりしています。
マリッジハラスメントや告白ハラスメントの場合、「迷惑」の程度であり、「我慢できないほど、耐え難い精神的な苦痛を味わった」とまではいえないでしょうから、ほとんどの場合、賠償金を請求できるまではいかないということです。
もっとも、たとえば、みんなが集まっている競技場や、駅前などで衆人環視の下、突然、まったく知らないような人から「好きです」「結婚してください」などと言われれば、恥ずかしいでしょうし、心の弱い人であれば耐え難い精神的な苦痛とも考えられます。
大勢の人が視聴するYouTubeなどでこういうことをすれば、とばっちりで評判が下がったり、ムダな憶測を掻き立てたりいろいろ投稿されたりするでしょうから、同じようなことが考えられます。したがって、今回のケースは、法的にもだいぶ問題がある行動だと思われます。
(文=編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)