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「ゲーム実況配信者は多額の収益→ゲーム開発者は収益なし」の是正めぐり論争

文=Business Journal編集部、協力=岩崎啓眞/ゲームプロデューサー
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「YouTube」より

 YouTubeなどの動画共有サイトではゲーム実況動画が人気コンテンツの一つとなっているが、一部のゲーム実況系YouTuberなどが多額の収益をあげる一方で、収益がゲーム開発者に還元されていないという指摘がなされ、開発者にも還元する仕組みを整備すべきではないかというテーマをめぐり、ちょっとした論争が巻き起こっている。ゲーム実況動画配信者と開発元はどのような関係なのか。また、そのような仕組みの整備は現実的なのか。業界関係者の見解を交え追ってみたい。

 10月に発売された人気ゲームシリーズ『スーパーマリオブラザーズ』の最新作『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』。発売から2週間で販売本数430万本を突破し好調なセールスをみせているが、 YouTube上では同タイトルのゲーム実況動画も人気だ。たとえば約1カ月前にアップされた「キヨ。」氏が投稿した『【4人実況】11年ぶりに発売された話題の完全新作「 スーパーマリオブラザーズ ワンダー 」#1』の視聴回数は258万回(12月1日時点、以下同)、「ポッキー」氏が投稿した『マリオの最新作が凄すぎる – スーパーマリオブラザーズ ワンダー – Part1』は同42万回、「はじめしゃちょー2」氏が投稿した『11年ぶりの新作が完全にキマってるwwwww【スーパーマリオブラザーズワンダー】』は同31万回など、高い視聴回数となっている。

 こうしたゲーム実況動画をメインに制作・配信する、いわゆる実況系YouTuberも少なくなく、なかには多数のチャンネル登録者数を擁する人もいる。たとえば人気YouTuberのヒカキンのゲーム専用チャンネル「HikakinGames」の登録者数は595万人、「キヨ。」氏は450万人、「ポッキー」氏は348万人、「兄者弟者」氏は313万人、「レトルト」氏は242万人、「日常組」氏は217万人など、登録者数100万人を超えるチャンネルがずらり。動画の大半は冒頭で数秒から数十秒程度の広告動画が再生され、それによる月間広告収入が数百万円に上るYouTuberもいるとされる。

「チャンネル登録者数やチャンネル内での総再生数などに関する一定の条件をクリアしないと、広告を貼ることはできない。それをクリアして広告を貼れるようになっても、最近の相場としては、広告動画一再生あたり約0.05〜0.7円程度の収入だといわれており、チャンネル登録者数や動画の長さ、カテゴリによっても変わってくる。ここ数年はコンテンツ数が急激に増えた影響で一般ユーザが数万~数十万再生を稼ぐのは至難の業となっているが、純粋に広告収入だけで月100万円以上を稼ぐYouTuberというのは、ほんの一握りで、かなりハードルが高いのが実情だ」(中堅IT企業役員)

<ゲーム開発者にも動画再生などから得られる収益を分配するべきだと思う>

 ゲーム実況動画を投稿することによって収益を得る人が多い一方、プレイされるゲームタイトルの開発元に動画再生による収益がもたらされることは少ない。SNSの影響力が高まった現在、ゲーム開発会社が新作タイトルの宣伝の一環としてインフルエンサー的なYouTuberなどにソフトや利用権限を貸与して、プレイ実況を許可するケースもある。そのような場合は一般的に動画の説明欄にゲーム開発元の協力を得ている旨が記載されているが、その他の大半の実況動画は配信者が開発元の事前許可を得ていないとみられ、配信による収益はゲーム開発元には配分されないことになる。

 このような現実を受けて、ゲーム開発会社「あまた」社長でソニー・インタラクティブエンタテインメント元ディレクターの高橋宏典氏は4月、SNS・X(旧Twitter)上に次のように投稿。

<YoutubeとTwitchは、今の技術的には何のゲームを配信しているのか検知可能なのだから、ゲーム開発者にも動画再生などから得られる収益を分配するべきだと思う。音楽業界ではできている(やっている)のにゲーム業界に対してやってないのは開発者に対して還元する気がないということなのでちとモヤる>

<動画だけで消費されてしまうタイプのゲーム(アドベンチャーゲームなど)は宣伝効果と機会損失のバランスの判断が難しい。一歩間違うと、機会損失の方が大きいタイプのゲームはあまり作られなくなってしまい多様性を失う可能性もある。プレイヤー側ももう少し真面目にこの問題を考えた方がいいと思う>

<もちろんゲーム動画の隆盛は時代の変化なので、ゲーム開発者側の生存戦略として、その変化に応じて最適化したゲームを作っていくことも当然にやるつもり。ただ、ゲームの多様性が失われる可能性が高い今の収益分配構造を放置しておくと、いちプレイヤーとしてはあんまり楽しい未来が想像できない>

 これを受けさまざまな声が寄せられ議論を呼んでいる。ちなみに「ニコニコ動画」のように、ユーザがプレイ動画などを投稿するとそのゲームの開発元に収益が還元される仕組みを導入しているプラットフォームも一部にはあるが、ゲーム業界関係者はいう。

「プレイのアルゴリズムや画面のデザインをはじめタイトルに関する一切の著作権はその開発元に属するので、それをプレイする画面をそのまま無断でネット上にアップするという行為は、映画や楽曲の無断アップロードと同様に著作権侵害になるというのが基本的な考え。ただ、多くのユーザがプレイ動画をネット上にアップすることで生じる『ファン熱』や一定の宣伝効果も見込めるということで、ゲーム会社が容認・黙認しているのが現実。投稿者が『悪意』からではなく、純粋にそのタイトルが好きでプレイの様子を公開している以上、ゲーム会社としては、それに対していちいちクレームを入れることによってマイナスのイメージが広まってしまうことのリスクのほうを重視している面もある。

 ただ、RPGなど長いストーリー性を持つタイトルの場合、クリアまでの動画を見ただけで満足して買うのをやめる人が増えれば、ゲーム会社としてはビジネス的には損失となる。つまり総合的にみると、ゲーム会社的には実況動画によって得することも損することもあるため、業界共通の仕組みをつくるなどの一律の対応が難しいという事情もある」

業界共通の仕組み整備は双方にメリット

 ゲームプロデューサーの岩崎啓眞氏はいう。

「ゲーム実況動画の投稿者の大半は無許可でやっているが、ゲーム会社が有名なストリーマーに依頼しているケースや、非大手のゲーム会社などが報酬を支払って動画を配信してもらうケースもある。最近ではゲーム会社側が『この部分は実況してOK』と宣言したり、セガが『龍が如く』でやっているように配信に関してガイドラインを設けて各種条件をつけるケースも出てきている。

 ゲーム会社にとっては、名前が知られていないゲームの宣伝にもなり、『スイカゲーム』や『桃太郎電鉄~昭和 平成 令和も定番!~』のように実況がきっかけでヒットするタイトルも存在するので、一定のメリットがある。特にFPS/TPS、PvP系のタイトルはいろいろなテクニックなどが披露されることでプレイの面白さが広まるので、メリットが大きい。

 一方、お話がメインのRPGなどは実況によってストーリーが明かされると売上が下がるというデメリットが生じる。アトラスの『ペルソナ』のように『ネタバレ厳禁』『ストーリーについては配信NG』とするケースもある」

 では、音楽業界におけるJASRACのような業界共通の仕組みをつくるといった動きは必要なのだろうか。

「実況による収益を開発元にも還元すべきという声がある一方、ゲーム会社側からは『もっとストリーマーが配信によって収益を得られるようにすべき』という声も聞かれ、両方の声があるのは事実。業界共通の仕組みがあれば、実況をめぐるさまざまなルールがより明確化されるので、ゲーム会社と実況配信者の双方にとってメリットがあるだろう」(岩崎氏) 

(文=Business Journal編集部、協力=岩崎啓眞/ゲームプロデューサー)

岩崎啓眞/ゲームプロデューサー、ゲームライター

岩崎啓眞/ゲームプロデューサー、ゲームライター

「天外魔境Ⅱ 卍MARU」「エメラルドドラゴン」「リンダキューブ」など、まずまずの名作ゲームを手がけてきたゲームプロデューサー。1994年からは「電撃PCエンジン」、「電撃PlayStation」、「電撃王」といった人気ゲーム雑誌でライターを務めてきた。
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Twitter:@snapwith

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