X社(旧Twitter社)が、X上でツイートが拡散される、いわゆる「バズる」現象がどのような法則で発生するのかを詳細に分析したレポートが注目されている。無料で公開された「世界初公開|『#拡散の科学』なぜ人はリツイートするのか?」と銘打たれたレポートは168ページにもおよび、X上では「SNSマーケティングやってるプロが全員廃業するレベルの優良資料」などと話題に。「ツイートが拡散され世間の話題になる入口は1300リツイート」「もっともリツイートにつながる投稿時間帯は深夜1~5時」「拡散とハッシュタグには相関はない」といった具体的な内容に加え、ケーススタディなども書かれている。このレポートの注目すべきポイントなどについて、専門家に聞いた。
SNSのTwitterは昨年(2023年)7月に現在のXへ名称変更されたが、このレポート「#拡散の科学 Anatomy Of Retweet」はその前の同年4月に公開された。レポートでは日本全体のツイートのうち0.1%しかないリツイート数1300超えの「バズったツイート」と、同1300未満のツイートを5100件ずつ抽出し分析。ユーザがリツイートボタンを押したくなる16個の「熱量」と、熱量の拡がり方として6個の「熱量伝播」が発見された。
・熱量伝播
直感、知識、主張、納得、声援、欲求
・熱量
WOW、FUN、尊い、癒し、感動、ショック、知っトク、注意喚起、同調、物申す、あるある、真理、応援、支援、WANT、インセンティブ
「熱量」としては、リツイート数1300超えのツイートのなかで「インセンティブ」が全体の28%を占めもっとも多く、「インセンティブ」を除くシェアをみると「WOW」「FUN」がもっとも多くそれぞれ23%で、「応援」(14%)、「癒し」(13%)が続く。また、一般的にはツイート内に動画や画像があるとバズりやすいといわれるが、「真理」「物申す」「同調」はテキスト表現のみがメインとなっている。
例えば熱量「WOW」系のツイートでリツイート数1300超えのものは、熱量伝播の「直感」で拡散され、
・既視感がないもの
・発見した喜びを感じられるもの
・画像や動画投稿
といった特徴がある。オーディエンスのリアクションとしては、
「信じられない」
「やばい」
「すごい」
「わぁ!」
「神」
「ええええ」
などが多い。
そして何が拡散を加速させるのかという「拡散ドライバー」については、「熱量」「Creative」「Format」「Wave」「Follower」の5つの観点から分析。たとえば「Format」に関連する「投稿カテゴリー」としては、もっとも拡散されるやすい投稿は「クラフト(作画など)」で、次いで「漫画」「アニメ」「ビューティー」「ファッション」「フード」が続く。「Follower」については、フォロワー数とリツイート数には相関関係はなく、フォロワー数に関係なく誰でもバズを起こせるチャンスがあるという。
Xのユーザーに希望を与える
このレポートの優れている点について、株式会社GxPのマーケター兼コンテンツ ディレクター、澤井貞夫氏はいう。
「ビジュアル的なデザイン処理のテンプレートに、大きな文字、少ない文字数で、わかりやすい単語と文章表現が使われており、読み手にシンプルに伝わるようになっています。これにより全168ページにもかかわらず、とても読みやすい。そのようなシンプルな編集体裁にもかかわらず『偶然に頼らない拡散の科学化の試み』という非常に高度な内容が語られており、公開から時間が経っていますが、今でも参考になる内容です。
膨大なデータに高度な分析処理を行い、それをシンプルな姿に落とし込み、ポストが拡散に至るユーザー心理などを細かくカテゴリ分けし、この分け方も直感的でわかりやすく、かつ、その内容を詳しく解説しています。単なる市場データ的な資料でなく、極めて実践的な内容のため、Xの活用を企画し運営する担当者はマニュアルとして使うことができます。
レポートの後半では具体的なテーマを設定し、ターゲットとなるユーザーの利用シーンを想定しながら、レポート内で解説している方法論にあてはめた実践的な運用例をまとめています。最後の20ページぐらいを使って各事項の簡潔なまとめを掲載しているので、忙しい人はそこだけ読めばいいつくりになっています」
澤井氏はレポートのなかで特に注目すべき点について次のようにいう。
「Xでの拡散について、これまで『多分こうだろう』と思われてたことを、データを用いて裏付けし、公開したというのは意義深いです。たとえば、以下のような内容です。
・深夜1~5時がリツイートの頻度が高い
・静止画や動画があると拡散されやすい
・拡散されやすいのは『クラフト(絵、工作)』がトップ
また、フォロワー数の影響はやはり無視できないとしつつも、フォロワー数に関係なく誰でもバズを起こせるチャンスがあるという事実を明文化している点は、Xのユーザーに希望を与えるものであり、一消費者の発言が社会に大きな影響力を与えるということを意味しています」
Xに限らず、企業がSNS活用の効果をより大きくするために必要なこととは何か。
「サイト上で新サービス/メニューやキャンペーンなどの更新情報をユーザーが知るには、サイトにアクセスするしかありませんが、アクセスしない間に重要な情報が掲載されるという事態が起こり得ます。そうした事態による機会損失をなくすために、SNSを運用し、サイトにアクセスしてきたユーザーをフォロワーにすることでタイムリーに情報を伝え、サイトへのアクセスを誘導するという『ユーザの囲い込み』も重要です」(澤井氏)
活用例
レポートの後半では具体例として、フライドポテトを扱うブランドがXを活用して定番としての購買頻度の回復向上策に取り組むと仮定。
・Audience:「高校生」をターゲットにする
・Moment:高校生が平日4回外に出ている学校帰りの「放課後」
このように設定し、放課後の高校生がポテトについてどのような会話をしているのかを彼らのツイートから探ると、ポテトの食感についてさまざまな好みを持っていることがわかり、16の熱量から「主張で広がる:同調」を使い、「#ポテトシナシナカリカリ選手権」という企画を実施。前述の「拡散ドライバー」を考慮し、「画像」を使用するために文字数を120文字以下に調整し、リツイートを獲得しやすい15時台に投稿するという結論になるという。
(協力=澤井貞夫/株式会社GxPマーケター兼コンテンツ ディレクター)