事故から1週間後に発売された「週刊文春」(文藝春秋/1月17日号)と週刊新潮(新潮社/同号)は、揃って関連記事を掲載した。両誌の報道を総合すると、事故が起きたのは沼津市内のビジネスホテルの駐車場内。夕方5時頃、一家を乗せた横手氏運転のアウディが、外出すべく駐車場内を時速10~20kmで走行していたところ、自身の車を駐車して通路に出てきた看護師の男性に衝突。その勢いで倒れた男性の体の上に、前輪が乗り上げたかたちになったという。車輌はアウディの中でも大型のSUVだったこともあり、肋骨が折れて肺に刺さり大量出血し、死に到ったということらしい。被害者の看護師の男性は、正月休みを利用して箱根駅伝を見物するため、このホテルに宿泊していたそうだ。
横手氏はこれからどうなるのか?
足利事件で菅家利和氏の主任弁護人を務めた佐藤博史弁護士に、解説してもらった。
逮捕・勾留の可能性は低い
ーー横手氏が、これから逮捕・勾留される可能性はあるのか?
佐藤博史弁護士(以下、佐藤) 今回の交通事故は現行犯。しかし、横手氏は逃亡したわけではなく、自ら通報したようなので、逮捕する必要があるかどうかは、通報を受けて警察が現場に到着した時点で判断しているはず。証拠隠滅や関係者との口裏合わせなどの可能性がなければ、その後に逮捕はされない。事故から1週間以上経っても逮捕されていないのだから、これから逮捕されるということはまずないと考えるべきだ。
ーー起訴される可能性は?
佐藤 起訴か不起訴かは、被害者、加害者双方の過失の程度によって変わってくる。また、ポイントになるのは示談が成立するかどうか。検察官は示談の成り行きを見届けて起訴、不起訴を決める。
交通事故は、保険制度が整っているために、他の犯罪に比べると被害者への補償が格段に手厚い。今回のケースでは、加害者、被害者双方の過失の程度は報道だけではよくわからないが、横手氏の反省の度合いからすると、示談が成立する可能性は高い。
さらに、遺族から厳しい刑事処分は望まないという嘆願書が出されると、かなり効果がある。ことに横手氏のような著名人の場合は、すでに社会的制裁を十分に受けているという判断もされやすい。とはいえ死亡事故なので、被害者側によほどの過失がないと起訴はされると思う。
ーー逮捕されないままの起訴とは、在宅起訴ということか?
佐藤 そうだ。逮捕されないと検察による取調べも任意となり、被疑者の都合を聞いて呼び出し在宅のままの起訴になる。仕事もできるし、保釈の場合と違って、国内外問わず旅行も裁判所の許可を得る必要はなく自由にできる。
実刑の可能性は低い
ーー起訴されれば裁判にかけられ、横手氏は法廷に立つことになるのか? また、裁判には拘置所からではなく自宅から出廷することになるのか?
佐藤 起訴にも2種類あり、実際に裁判にかけられる公訴請求になれば、自宅から出廷することになる。公訴請求されず、略式起訴になれば、裁判にはかけられず、量刑も罰金刑のみになる。
ーー公判請求された場合、実刑判決が出る可能性は?
佐藤 今回のケースで、実刑判決はまずあり得ない。つまり、公判請求されても執行猶予がつくだろう。今回の容疑は自動車運転過失致死罪。業務上過失致死罪の刑は5年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金だが、自動車運転の場合は7年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金と、より重くなっている。とはいえ、執行猶予がつかないような悪質なケースなら、そもそも逮捕されている。今回は逮捕されていないので、執行猶予はつくと思う。
なお、実刑判決が下され刑務所に収監される場合でも、交通事故の場合は、通常の刑務所ではなく、交通刑務所に収監される。交通刑務所は市原市(千葉県)や加古川市(兵庫県)にあり、懲役刑なら刑務作業などを行い、禁錮刑なら拘束をされるだけという点では通常の刑務所と同じだが、通常の刑務所よりも自由度が高く、刑務所の造りも通常の刑務所とは異なり塀も低い。
ちなみに現在は、自動車運転過失致死罪とはまったく別個に危険運転致死罪が設けられており、飲酒運転で事故を引きおこした場合などは、過失ではなく故意犯として扱う。この場合は、原則15年以下の懲役だが、それが死亡事故であれば1年以上の有期懲役なので、最長で20年の懲役になる。今回のケースでは、事故直後には危険運転致死罪と混同しているかのような大げさな報道が目についたが、故意と過失とでは扱いが全然違う。
(文=伊藤歩/金融ジャーナリスト)