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日銀と政府の暗闘〜政治介入、銀行券ルール抵触?OBから批判噴出

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日本銀行本店(「wikipedia」より)
「世界中どこの国の選挙でも、中央銀行の在り方が最重要の争点になった例はない。その事実だけで私は恥ずかしい気持ちに陥った。この国の中央銀行は、宿命的スケープゴ―トになるのだろうか」

 元日銀副総裁の藤原作弥氏は、古巣である時事通信の機関誌「金融財政ビジネス」(12月10日付)のコラムでこう嘆いてみせた。浜田宏一・エール大学教授、高橋洋一、勝間和代、竹中平蔵、伊藤隆敏、山本幸三……「安倍総裁は、これら有象無象のご進講をにわか仕込みし、論理的に整理・吸収できぬまま、お粗末拙劣にもあわてて開陳してしまったのだろう」と切り捨てている。さらに、「長期金利の暴騰、ハイパーインフレなどの裏目の現象が現出した場合の責任は誰がどうとるのだろうか」とも記している。

 そして、藤原氏が最も懸念するのは日銀法の改正。「この日銀法改正、くせものである。旧日銀法は太平洋戦争が勃発した昭和16年12月の翌年昭和17年に制定した戦時立法。同法の政府の日銀に対する業務命令、監督権限、総裁罷免権などを改め、独立性と透明性の2本柱の新日銀法に改正したのは15年前のことではないか。若き右翼アベちゃんの日銀法改正論議は『国防軍』創設、自主憲法制定などの主張と共に、戦時軍国主義体制を想起させる。厳寒の冬の季節到来か。ブルブル」と懸念を表している。

●金融への政治介入

 政治が金融に介入してうまくいったケースは歴史的にも少ない。特に独立性が担保された日銀への圧力は、いわば禁じ手。それでも時の政権は日銀にいろいろと注文したい衝動に駆られるようだ。それは日銀に「打ち出の小槌」のようなマジックを求めるようなものだ。そうした政治の介入に対する日銀OBの反発は、ちょうど1年前にも聞かれた。

 日銀は2012年2月の金融政策決定会合で、それまでの「物価安定の理解」に代わり、「物価安定の目途」を導入し、消費者物価指数(CPI)の前年比上昇率1%が見通せるまで強力に金融緩和を推進していくことを表明、同時に10兆円の長期国債(残存1~2年)の買い入れ増額(総額65兆円)を決めた。市場は好感し、円安、株高が進行、日経平均株価は7カ月半ぶりに1万円台を回復した。いわゆる日銀による「バレンタイン緩和」と呼ばれた措置だ。

 しかし、この日銀の決定について、元日銀審議委員の田谷禎三氏(立教大学特任教授)は、「長期国債の保有残高は銀行券の保有残高以内とする」と日銀が定める「銀行券ルール」を実質的に逸脱する可能性が高く、日銀の金融政策は「財政ファイナンス」に近づいていると懸念を示した。日銀基金による10兆円の長期国債買い入れ増額は、銀行券ルールの対象外になっているが、これを含めると、12年末までに日銀の長期国債保有額は、銀行券発行残高を上回る計算になる。

 また、元日銀理事の平野英治氏(トヨタファイナンシャルサービス副社長)は、「日銀がデフレ脱却の意志を示して行動すれば、円高修正が進み、デフレから脱却できるという、ある種の幻想を助長してしまったことは、非常に絶望的な行為であり、ルビコン川を渡ってしまったように見える」と懸念を示した。さらに、「日銀がデフレ退治をする。そのために国債を買う」と受け止められ、日銀の国債購入額が国債増発額とほぼ同じ額になったことは、「財政の貨幣化」という未知の領域に踏み込んだと受け止められかねないと指摘する。

●懸念表明=白川総裁へのエール?

 有力OBの相次ぐ懸念表明。表面的には白川総裁バッシングともとれる内容だが、実態は「日銀はオーソドックスな政策スタンスを堅持すべき」だとする白川総裁へのエールにほかならない。「もっと日銀が量的緩和をすれば、よくなるんじゃないか。日銀がさらに追加の量的緩和に踏み込めば、デフレからインフレになり、株価も上がり、円安に振れる」とない物ねだりする政治に対し、OBを挙げて煙幕を張っているようなものだった。政府と日銀の暗闘は、政権交代前からすでに始まっていたと言っていい。

 政治に蹂躙される日銀に対し、OBはいろいろなかたちで助け舟を出しているわけだが、安倍首相による日銀への注文が功を奏して、市場は円安・株高に振れ、日本経済は明るい方向へ進みつつある(?)ようにみえる。少なくとも「アベノミクス」は市場のセンチメントを一変させた。OBによる「日銀頑張れ」のエールは、いけいけどんどんのリフレ(通貨再膨張)派の高笑いの前にかき消されつつある。
(文=森岡英樹/金融ジャーナリスト)

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日銀は政府に足元を“すくいとられる”?

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