NEW
松江哲明の経済ドキュメンタリー・サブカル・ウォッチ!【第15夜】

「ハコモノではなくヒトの手を」地域デザイナーが闘う地方経済の真実

【この記事のキーワード】

,

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

post_1483.jpg
(あらイケメン。「カンブリア宮殿HP」より)
ーー『カンブリア宮殿』『ガイアの夜明け』(共にテレビ東京)『情熱大陸』(TBS)などの経済ドキュメンタリー番組を日夜ウォッチし続けている映画監督・松江哲明氏が、ドキュメンタリー作家の視点で裏読みレビュー!

今回の番組:1月31日放送『カンブリア宮殿』(テレビ東京)

 男は漁船に乗って現れ、漁港を歩く。小さめのスーツケースを転がし、キャメラが向けられると照れくさそうに笑った。彼はコミュニティデザイナー山崎亮。彼はもう「地方ではコミュニティが成立しなくなっている」と断言する。しかし、彼は実際に地方に活気を与え、町を活性化させている。

 例えばある島ではおばちゃんたちを促し、名物となった名産品を産んだ。ある民家ではおばちゃんたちが売り物にならない穴の空いたのりを切り刻み、しょうゆに漬けてご飯に乗せる「のりっこ」を作っている。産業もなく、元気もない島に彼がアイデアを与えたのだ。飲み会では、おばちゃんがゲラゲラ笑いながら短く刈られた彼の坊主頭を撫でている。そして「この人に言われると出来そうな気がする」と言う。決して若くはないが元気な女性たちに囲まれて、山崎も嬉しそうだ。

 しかし、彼はその場を去り、次の寂れた町へと向かう。この構図は西部劇みたいだな、と思う。僕はいつか見た、流れ者のガンマンが町を救い、砂埃が舞う中、馬に乗りどこかへ去るラストシーンを思い出す。

 では町を支配する悪役は誰か。そこがはっきり見えないのが現代なのだろう。行政は金をかけて駐車場を作るが、駅前の商店街はシャッター通りのまま。文化施設を作っても、それが住民を満足させるものとはほど遠い。最も呆れているのはそこに住む市民たちだ。そのくせ「税金を払っているのだからなんとかしろ」と口にすることだけは達者なのだ。だが、そんな光景は珍しくもなんともない。数年前からずっとそんな安いドラマがいたる地方で演じられ、若者は去り、町は機能を失った。

 実は山崎自身も行政の側だった。兵庫県の県庁職員を担当していた時代、町の人たちから散々「何でもやってくれるんだろう」と言われてきた。そして様々な設計を手がけた後、モノではなく「人を繋げる」ことに意識を変え、現在の職に就いた。「ハコモノをデザインしてきたが、これ以上増やすのはマズいかもしれない」と思ったそうだ。それまで自分が行ってきた仕事を見つめ直すのは相当な覚悟があったことだろう。モノありきではなく、まずはヒトなのだ。

 そんな当然のことだが、実行するのは難しい。なぜなら行政ほど数字と結果を優先し、そこに住む人が抱える気持ちや心は後回しにせざるを得ないからだ。山崎は町を歩き、人と繋がる。隣の人には言えなくても、よそ者になら言えることがある。「この町には何があるの? と聞かれても、何もない町だと言ってしまう」。そんな本音をこぼせるのも、山崎が「他人」だからだ。

 この「他人」は人との距離を必要以上に縮めない。なぜなら主役は彼ではなく、そこに住む住民だからだ。「聞き屋さん」なる集会所のアイデアを出しても、話を聞くのは山崎やスタッフではない。会話に飢えた一人暮らしの若者や老人の話をただ聞くのは町の人。こうやって人が繋がるきっかけを作るだけで十分なのだ。

 山崎はそんな様子を遠くから眺め、写真に収める。