NECがケータイ事業から撤退へ 11社から5社にまで減少 世界でも出遅れる日本メーカー
NECカシオモバイルは、NEC(出資比率70.74%)、カシオ計算機(同20.00%)、日立製作所(同9.26%)の3社の携帯電話事業を統合して10年5月に発足した。従来型の携帯電話を生産してきたが米アップルのスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)「iPhone(アイフォーン)」などに押されて収益は悪化。12年3月期は160億円の営業赤字を計上、199億円の債務超過に陥った。13年同期も3年連続営業赤字。黒字化を見通せないと判断した。携帯電話事業からの撤退は4月末に発表する経営計画に盛り込む。
NECとレノボは11年、個人向けパソコン事業で合弁会社を設立するなど提携関係にある。レノボへの売却が決まれば日本メーカーの携帯電話事業が初めて海外勢に買収されることになる。NECの撤退で、かつて11社あった国内メーカーは5陣営に集約される。
旧電電公社ファミリーの代表格のNECは、05年初頭まで国内首位に君臨する“ケータイの王者”だった。折りたたみ式のケータイを初めて投入したのはNEC。10年前、国内には携帯電話メーカー11社が乱立していたが、NECが頭一つ抜け出ていた。ケータイのガリバーであるNTTドコモ製品を供給していたからだ。02年度の出荷台数のシェアはNECが20.8%で1位。2位の松下通信工業(現・パナソニック、シェア17.8%)、3位のシャープ(同12.5%)が追う展開だった。
NECが敗北した原因は、携帯電話のガラパゴス化にあった。
南太平洋上にあるガラパゴス諸島は英国の生物学者、チャールズ・ダーウィンが測量船ビーグル号で調査に訪れ、進化論の着想を得たとされる有名な島だ。ガラパゴスゾウガメ、ガラパゴスペンギン、ガラパゴスイグアナなど、各大陸とは隔絶され、独自の進化をとげた固有種が多く存在する。
ガラパゴス諸島の動物のように技術やサービスが日本市場で独自の進化を遂げ、世界標準からかけ離れてしまうものをガラパゴス化という。携帯電話は、その典型である。
日本では薄型で美しい液晶を搭載し、音もきれいな高機能のケータイが次々と世に出る。サービスでも端末でも、日本のケータイは「世界一」といっても過言ではない。しかし、日本メーカーの携帯端末は世界市場ではまったく相手にされなかった。
理由は簡単だ。郵政省(現・総務省郵政事業庁)とNTTが海外通信大手の日本進出を阻止するために、世界標準に背を向けた独自規格を押し通したからである。その結果、日本のケータイは日本市場でしか売れない、固有種になってしまった。
通信行政の戦略ミスが携帯電話産業の世界市場での敗北をもたらした。
最初のつまずきは中国だった。第3世代通信(3G)を見込み、中国市場に進出した。05年当時、8000万台といわれた中国市場に、各社合計で1億台を投入した。しかし、現地の通信規格に対応するため開発費が膨らんだ。パナソニックや東芝、NECは中国から撤退した。
国内市場に閉じ込められた各社は事業の再編に動く。三菱電機は撤退。京セラは三洋電機を買収。富士通は東芝を統合。NECとカシオ計算機、日立が統合したのがNECカシオモバイルなのである。
再編を経て、上位メーカーの勢力地図は様変わりした。米調査会社IDC の調べによると12年(暦年)の国内出荷台数シェアは、米アップルが23.3%で首位。以下、富士通(シェア18.0%)、シャープ(同14.0%)、ソニー(同8.4%)、京セラ(同8.0%)と続き、NECは圏外に去った。従来型の携帯電話を生産するNECは「ガラケー(ガラパゴス携帯電話)の生きた化石」になった。世界市場を見渡せば、国内でのバトルはコップの中の嵐にすぎない。
12年の通年の世界出荷台数は前年同期比1.2%増の17億台。スマホは44.1%増の7億1260万台。スマホが主役に躍り出た。スマホのメーカー別シェアは韓国サムスン電子が前年比11.3ポイント増の30.3%と首位を独走。米アップル(シェア19.1%)、フィンランドのノキア(同4.9%)、台湾のHTC(同4.6%)、カナダのRIM(同4.6%。台数ではHTCが上回るが、シェアだと同率になる)と続く。日本のメーカーは5位にも入らない。