日本的雇用慣行のひずみ、スキルの陳腐化…深刻な“仕事消失時代”に突入!? いま重宝されるポータブルスキルとは?
「週刊ダイヤモンド 5/11号」の特集は『“仕事消失時代”に生き残るビジネスマン』だ。5つの雇用激変(日本的雇用慣行のひずみ、スキルの陳腐化、産業構造の変化、機械との競争、外国人との競争)の嵐が襲い、「今ある職場」「今ある職種」が消失しようとしている。とくに最も割を食うことになるのがミドル世代(30代後半から54歳)だ。
最近の再就職市場では“従来、動かなかった人”が移動している。2000年代前半の雇用調整局面は製造業の生産要員、海外要員が主流だったが、今回は本社のホワイトカラーも放出されている。企業に65歳までの雇用延長を“実質的に”強いる高年齢者雇用安定法が4月にスタートするなど雇用制度改革をきっかけに長期雇用が前提だった日本的雇用慣行の企業は、組織・業務の効率化を図ろうとしているのだ(『Part1 80歳総勤労時代へ「仕事争奪戦」の幕開け』)。
玩具メーカー大手、タカラトミーでは1月、150人程度の希望退職を発表。150人程度という規模は、本体と国内連結子会社4社の社員数の17%にあたる大規模なもので、対象となった社員はタカラトミー本体で35歳以上、国内連結子会社4社で40歳以上だ。ところが、応募したのは138人と目標にとどかない。裾野が狭い業界の規模とミドル世代という年齢的に再就職が難しいという現実が社員の希望退職の応募を躊躇させたのではないかと見る(『Part2 5つの激変が招く ミドル世代の受難』)。
求められるスキルもITリテラシー、英語などは当たり前、いまでは電機メーカーでは、博士号や修士号を持つ者でもリストラ対象に含むようになっている(スキルの陳腐化)。
薬剤師などの有資格者もITによる機械化(機械との競争)でそれほど必要がなくなった。たとえば、1月からネット販売を開始した医薬品ネット販売大手のケンコーコムではITを活用しており、1カ月間で1日平均1600件の注文を受け、薬剤師への相談は全部で約600件あったが、薬剤師の体制は7人で可能だという。
産業構造は変化し、今後はサービス業が成長の中心になる。ただし、ホスピタリティ(心からのおもてなし)やコミュニケーションが求められる医療や福祉、教育の現場では、男性よりも女性の雇用機会が増えるのではないかという。 では、ミドル世代はどうすべきか。
『Part3 40歳から始めようキャリアチェンジの心得』では、業種・職種の垣根を越える“ポータブルスキル”を磨くことが必要だと説く。ポータブルスキルとは業種・職種の垣根を越えてどの仕事でも通用する汎用スキルのことだ。ポータブルスキルを軸に、80歳まで働くための自分のキャリアチェンジを検討してみてはどうだろうか。
なお、仕事消失現象は「週刊ダイヤモンド」の誌面でも見られるようだ。 『From Editors』の編集長のコラムによると、今号で20年間の連載となっていた巻頭の時評1コママンガ『F氏的日常』(福山庸治)と辛口マネー運用アドバイスの13年間の連載『山崎元のマネー経済の歩き方』が終了だという。さらに、今号書評ページを読んでいると林操氏によるコラム『ベストセラー通りすがり』も9年間の連載が終了だというが、この林氏のコラムについては編集長はとくにふれていない(林氏のコラムは変に書き方にこだわってしまう読みづらいコラムの典型だったので、編集長としてもどうでもよかったのかもしれない)。
次号は、ダイヤモンド創刊100周年記念号。次号からは作家の池井戸潤氏、前中日ドラゴンズ監督・落合博満氏、キャスターの小谷真生子氏、デザイナーの佐藤オオキ氏、元外務官僚の佐藤優氏などが新連載陣として登場するのだという。
ダイヤモンド社で40万部を超えるベストセラーとなった『采配』を出した落合氏のコラムは楽しみだが、気になるのが元外務官僚・佐藤優氏だ。
というのも、佐藤優氏はすでに、ライバル誌「週刊東洋経済」で『知の技法 出世の作法』という連載をほぼ6年にわたって続けているからだ。さらに「週刊エコノミスト」では巻頭コラム『闘論席』を4人の著者が順番に担当しているが、その1人が佐藤氏なのだ。佐藤氏は一時期マスコミの連載にひっぱりだこで、「連載ページを埋めるために、引用が多くなった」と揶揄されたこともあったほど、仕事の集中ぶりが懸念されたことがあるが、今後も出版業界は、一部の執筆者の重用の傾向はとまらないようだ。
なお、経済誌に重用される執筆者には、野口悠紀雄早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問がいる。野口氏は元大蔵官僚で、著書多数で日本の経済界にとって欠かせない人物だが、「週刊ダイヤモンド」では『「超」整理日記』を、「週刊東洋経済」では『ストックで読み解く世界経済』という連載を行なっている。昨年の今頃、本コラムで「二股連載」と揶揄したことがあったが、現在も両誌ともに継続中だ。
二股連載といえども、内容が異なっていれば、それほど目くじらをたてる必要もないのかもしれないが、気になるのは野口氏は現在の安倍政権の経済政策をアベノミクスバブルだと警鐘を鳴らしているために、書いている内容が似通ってきていることだ。たとえば、今号の「週刊ダイヤモンド」『「超」整理日記』では、「無謀な金融緩和で国債リスクが増大」というタイトルだ。また「実質的日銀引き受けで財政インフレの危険」という中見出しもある。
一方で、「週刊東洋経済」『ストックで読み解く世界経済』では「日銀の異次元緩和措置で財政拡大が可能になった」というタイトルで、中見出しには「実質的日銀引き受けで近づく財政インフレの足音」と書かれている。
「実質的日銀引き受けで財政インフレの危険」(ダイヤモンド)と「実質的日銀引き受けで近づく財政インフレの足音」(東洋経済)と見出しはほぼ一緒ということから分かるようにテーマはほぼ同一になっているのだ!?
野口氏は原稿を取り違えて送ってそのまま掲載されても問題がおきないんじゃないか……と皮肉をいいたくなるが、これこそが雑誌の垣根を越えることができる“ポータブルスキル”的な連載なのかもしれない。
次号からは野口氏のほかに佐藤優氏も両誌に登場することで、雑誌の取り違いをしないように注意したいものだ。
(文=松井克明/CFP)