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IGPIパートナー塩野誠「The Critical Success Factors Vol.12」

日本の法的環境が素晴らしいといえるワケ アジア新興国の“ワイルドな”実態とリスク

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ミャンマーの街並み(筆者撮影)
 ゴールドマン・サックス、ベイン&カンパニーなどの複数の外資系金融機関やコンサルティング会社を経て、ライブドア時代にはあのニッポン放送買収を担当し、ライブドア証券副社長に就任。現在は、経営共創基盤(IGPI)でパートナー/マネージングディレクターとして企業の事業開発、危機管理、M&Aアドバイザリーに従事するのが、塩野誠氏である。そんな塩野氏が、ビジネスのインフォメーション(情報)をインサイト(洞察)に変えるプロの視点を提供する。

 5月連休も終わりましたが、みなさんはお休み中の憲法記念日を、どれだけ意識されていたのでしょうか。ここでは最近話題の憲法改正について話すつもりはありませんが、我が国の憲法は結構良いことを言っていると個人的には思っています。国が変われば憲法も大きく変わり、米国で銃に関する痛ましい事件が起きるたびに話題になるのが、米国憲法修正第2条です。これは人民の武器を所有する権利を謳っており、米国で銃規制について論じられる際は、常に引用される条文です。日本に暮らしていると、なかなか想像がつかない文言です。

 憲法、そして法律は最もローカルなもの、その国に固有なものであり、その国ごとにまったく異なるものです。法律が各国固有であるのが当たり前だとすると、時々耳にする「国際弁護士」というものが不思議なものに聞こえてきます。各国が批准している国際条約はあるかも知れませんが、世界共通の法律みたいなものはありません。「国際弁護士」と呼ばれる人もどこかの国で弁護士活動をしており、そこの法律に準拠した契約締結などの法的行為のアドバイスをしていることになります。

 国際弁護士はちょっと適当な定義でして、実際、多くの場合は日本の弁護士で、かつ米国のロースクールで法学修士を取得した上で米国ニューヨーク州などで弁護士登録を行った人が、日本と海外をまたぐ取引に従事しているといった人を指すものと考えられます。テレビなどでは国際弁護士という名称を聞きますが、ビジネスの現場では使われていません。以前は国際業務を行う日本の弁護士を「渉外弁護士」と呼んでいましたが、最近ではほとんど聞かれなくなりました。

 今では日本の弁護士もロースクールができた以降はだいぶ増えて、弁護士になっても食えずに法律事務所の軒先を無報酬で借りる「ノキ弁」や事務所も借りられず携帯で仕事をする「ケータイ弁」が話題となりました。弁護士の多い米国では救急車を追いかけて交通事故被害者の代理人になりたがるような弁護士を“Ambulance chaser”と呼びますが、日本でもそんな時代が来るのでしょうか。

●公布前の法律書を道端で販売?

 弁護士増加の中、近年、日本の大手有名法律事務所は海外、特にアジアへの進出に力を入れています。日本の弁護士も海外に派遣され、そこで現地の弁護士と協業して日系企業向けにサービスを展開しています。筆者も海外出張ではそうした現地日本人弁護士とよく会って情報交換をしますが、所変われば人も法律も変わり、色々と苦労があるようです。

 先日、ミャンマーに出張に行った際に、ガタガタの道でタクシーに乗っていると、止まったタクシーに物売りのおじさんが近づいてきて、何やらパンフレットのようなものをガラス越しに見せました。見るとそこには「不動産法」や「貿易法」といったタイトルが英語で書かれており、どうやら道端で法律書を売っているようでした。

 後で現地の弁護士に聞いたら、「経済が成長し始めて、法律書を道端で外国人に売り始めたんですよ、でも色んなバージョンがあって、必ずしも正確な内容ではないです。中には法案可決前のものもあります。買っちゃダメですよ」とのことでした。公布前の法律書が道端で売られているとは、アグレッシブかつインサイダーな国です。

 筆者の仕事の中にはM&A業務があり、アジアの新興国におけるM&Aの相談を受けることも多いですが、やはり取引上問題となるのは法律面です。日本の裁判の判決や当局による訴追を見ても、中には恣意的に感じる事件があるかもしれませんが、アジア新興国のそれらは、まったく日本の比ではありません。

 それこそ国よって違いはありますが、ざっくり言うと、まず「法的予見可能性」が低いです。これは、何をしていれば遵法状態、つまり法を守っていることになるのかがわからない場合が多いということです。予見可能性とは、これをしたら規制当局はこうするといった見通しが立つことです。日本であれば少しグレーな行為であっても、判例や当局への問い合わせで、だいたい何をやって良いか悪いかは察しがつくものですが、これがわからない取引は危険です。例えば法律の条文にダメと書いてあるからやっちゃダメだとして、書いてないことは本当にやっていいのか? といった問題です。「やって良いと書いてないからやっちゃダメ」と言われて罰せられる可能性もあります。