(「Wikipedia」より)
あるIBM社員は、不安を隠さない。
ドイツでコストカッターの異名を取ったマーティン・イェッター氏が日本IBMの社長に就いたとき、大規模なリストラが始まるとの見方が流れた。報道陣に真偽を問われたイェッター社長は、「それはプレスが言っているルーマー(噂)だ」と一蹴したが、その舌の根も乾かぬうちに常軌を逸したクビ切りが始まった。
複数の社員によれば、それは決まって夕方、退社時間の少し前に起こる。上司から突然呼び出され、別室で解雇が通知される。併せて「退社時間までに荷物をまとめて会社を出るように。明日からは出社に及ばず」と告げられる。業務の引き継ぎもなければ、同僚へのあいさつもない。問答無用で社員を叩き出すこうした解雇は、ロックアウトと呼ばれる。
解雇理由は「個人の勤務成績不良」というが、どの解雇通知にも同じ定型文が印刷されているだけ。その内容は
「貴殿は、業績が低い状態が続いており、その間、会社は様々な改善機会の提供やその支援を試みたにもかかわらず業績の改善がなされず、会社は、もはやこの状態を放っておくことができないと判断しました。以上が貴殿を解雇する理由となります」
というもので、一言一句変わらず、個人ごとに業績や努力を検討した形跡はうかがえない。
IBM関係者が語る。
「しかもその際、自ら退職する意思を示せば解雇を退職に切り替え、退職加算金と再就職支援をする、と付け加えるのです。それを選べば、解雇撤回を争う道はほぼ閉ざされますが、切羽詰まったなか、加算金を選ぶ被解雇者が多いようです」
●解雇撤回を求めた裁判始まる
そうしたなか、JMIU(全日本金属情報機器労働組合)日本アイビーエム支部に所属する3人が、解雇撤回(従業員としての地位確認)を求め会社を訴えた裁判の第1回口頭弁論が、12月21日、東京地裁で開かれた。傍聴席の定員98人の大法廷(103号法廷)が同僚や友人らで埋まるなか、解雇された原告男性が意見陳述に立った。26年間尽くしてきた会社から9月20日にクビを告げられた彼には、小学1年生の息子がいる。
妻が彼に言った。
「小1の息子にとって、働いていないお父さんはありえない」
彼も「ありえないな」と考え、妻子と別居し、実家に越した。息子には「実家のほうが会社に近いから、実家から通うね」と言い含めて。
弁論が終わった後、彼は「解雇されてから、私は悲しい気持ちを封印することで、なんとか生きてきました。それが裁判の準備のなかで封印を解き、気持ちを公にすることにしました。陳述を原稿に起こしている最中も涙がこぼれましたが、満員の傍聴席を見て勇気が湧きました」と振り返り、こう付け加えた。
「解雇を撤回させ、この社会が幸せに満ちていることを息子に伝えたいんです」
彼が意見陳述で明かした「Uの話」には、どよめきも起きた。
上司が親指と人差し指で「U」のかたちをつくって見せ、「これだろ?」と質問。「Uですか。ユニオン、組合のことですね?」と答えると、「活動やっているのか」「これ(U)は良くない」と言葉を重ねた、という。別の上司は「組合に入っていると不利な査定がなされるという事実を知っていますか」と迫った、と彼は述べた。