「サムスンが倒産したら韓国経済もつぶれる」
日本の経済界では、そういった言説がささやかれている。実際に、サムスンの躍進は日本国内にとどまらず海外でも続いており、凋落する日本の家電メーカーと対比して語られてきた。特にサムスンのスマートフォンは、世界中で大きな売り上げを誇った。サムスンの2010年の売上高が韓国のGDPの22%、株式時価総額は韓国株式市場の25%、韓国の輸出額の24%を占め、資産は韓国の国富の3分の1に迫る大企業である。
さて、多くの日本人は、サムスンほどの大企業なら絶対に倒産はないし、韓国経済がおかしくなっても、サムスンがなくなることはないかのように考えているようだ。しかし日本で同社は、GDPや輸出額などの数字だけを見て語られてきたので、私たちは現在のサムスンの“本当の内情”をよくわかっていない。
韓国の経済界や政治に詳しい人の中では、サムスンが安泰だと考えている人は少ないようである。彼らは一様に「サムスンは、遠からず凋落するでしょう。少なくとも、今のまま繁栄を続けるということは絶対にない。まさに今がサムスンのピークです」と話す。
これは一体どういうことなのであろうか?
「韓国は、李承晩大統領(り・しょうばん/第二次世界大戦前から1960年まで韓国政府や臨時政府の大統領を数回務めた)のころから経済界と政治権力の癒着がある国です。財閥がその時々の与党や大統領を支援し、彼らが作った政府から恩恵を得るという構造が続いてきた。というのも、もともと韓国は朝鮮戦争で一度国内の経済が破壊されており、その復興に際しては、政府が中心となって経済政策を行ってきました。李承晩政権のときは、戦前の日本人が遺した“遺留資産”の帰属に関する帰属財産処理法や朝鮮戦争の復興のための資金援助などをめぐり、財閥との癒着が大きく問題になりました。そして、李政権では、政経癒着と揶揄され、政治に結びついていた財閥は特恵財閥とされました。そして、60年に李大統領は不正を問われて失脚するのです」(韓国の経済識者)
韓国の経済は、戦前から続く政界と財閥の癒着が基礎にあるわけだ。そしてご存知のとおり、そうした癒着は何度も大統領が替わった今でも続いている。韓国の経済識者は続ける。
「その後、清廉といわれた朴正熙大統領は(第5〜9代大統領。在任:1963〜79年)、そうした特恵財閥の不正蓄財処理を進めた一方で、経済発展のために傾斜生産方式のような重点的な産業に政府系の投資が行くことになり、新たな財閥が形作られました。そして、彼らからの政治献金に関する問題も当然存在し、三鶴焼酎や双龍グループなどは、献金した政治家の失脚と同時に、財閥そのものが没落またはグループの解体となったのです。
続いて全斗煥大統領(第11・12代大統領。在任:1980〜88年)は、国際グループとの癒着が大きく、それは韓国人ならば誰でも知っていた。しかし、その国際グループも全大統領の失脚ともに没落し、財閥グループそのものが解体されました。その後も同国では、政治家、特に政権与党の政治家や大統領と財閥の間で癒着と汚職が続いており、歴代の大統領が汚職や不正で、退任後に逮捕されるか、または自殺をしている。それに合わせて、癒着していた財閥も徐々に凋落していく……というサイクルが確かにある。