09年5月の盧武鉉大統領(第16代大統領。在任:2003〜08年)の自殺によって、盧武氏が行っていた太陽政策に協力し利益を得ていた現代財閥も一時ほどの力はなくなり、李明博大統領(第17代大統領。在任:2008〜13年)時代にはサムスンが台頭した。しかし、その実態は李大統領による保護と、政府系の融資、そして許認可の優先的な取得で経済的に大きくなってきたもの。当然、李大統領が退任し、今後政治的な力を失えば、サムスンも無傷ではすまない、という観測が公然と唱えられています」
韓国の経済界は、大統領の交代と同時に、「主役」となる財閥が替わるというのである。ではサムスンが、現政権である朴槿恵大統領(第18代大統領。在任:2013年〜)と癒着関係を持てば、今までどおり、または今までよりももっと強い経済集中が起きるのではないか?
この疑問に関して、韓国人の経済記者は答える。
「07年、当時ソウル市長だった李明博氏が大統領に立候補するときに、ハンナラ党では4人の候補がいた。その中の一人が朴槿恵氏であり、最も有力な候補でした。しかし、どうしても大統領になりたかった李氏は、ほかの3人の候補と手を組んで、朴候補を追い落としたのです。朴氏は、暴漢に襲撃されるなど、李氏の工作に対抗することができなかった。候補から追い落とされた朴氏は非常に落ち込んで、一時は政治家の道をあきらめたほどでした。
そして、その李氏の工作などに、金銭面などで手を貸していたのがサムスンでした。今期の大統領選挙でも朴氏を大統領にしたくなかったサムスンは、無所属の安哲秀弁護士を推していたのです。安候補の支持層は、サムスンのスマートフォンを使っている世代だったことも関係しているでしょう。そうした若い世代が朴候補の支持をしなかったために、朴氏の支持層は年寄りばかりです。当然、朴氏は、それら一連の事件を深く恨んでおり、表立ってサムスン批判をしているわけではありませんが、財閥解体と経済の自由化を強く主張しています」
こうした動きが、サムスン財閥の解体を念頭に置いていることは言うまでもない。では、今後の韓国経済とサムスンは、どのようになるのであろうか?
「よく言われるように財閥の独占により、韓国国内の富は極端に2極化しています。今後、財閥解体と中小企業育成がうまくいけば、経済もより上向きになるでしょう。国民全体の所得が上がり、それだけ内需も増えることになります。しかし、うまくいくまでは、かなりの混乱が予想されます。もちろん、中国やそのほかの諸国から受けるさまざまな要因があるので、韓国の経済全体を予想するのは難しい。ですが、サムスンが徐々に凋落することは目に見えている。もともとサムスンは小麦粉などの食品材料の輸入業者だったのが、廉価版の家電を発展途上国相手に売り急成長した企業。しかし、それも頭打ちになっています。日本企業は、サムスンが韓国の3分の1の経済力を持っていると誤解したままだと、もし仮に同社が急に条件の良い話を持ってきたときに、飛びついてしまうかもしれませんが、そうした甘い話には落とし穴があると思ったほうがよいでしょう」(同)
日本の企業は、風評や肩書やブランド力で判断してしまい、本当の姿を見ない場合があるので、十分に気をつけなければならない。いずれにせよ、韓国の経済と財閥に関しては十分に注目が必要である。
(文=宇田川敬介)