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『刑事の結界 叩き上げ警部補・島田伸一の事件簿』発売記念インタビュー

「惨殺事件の部屋は“鉄のにおい”がした」叩き上げ刑事が語る小説よりもリアルな現場

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『刑事の結界』(朝日新聞出版)
 かの『相棒』が常時20%近くの視聴率をキープするテレビ朝日の看板へと変貌を遂げて以降、刑事ドラマが頻発している。この4〜6月クールだけでも、『ガリレオ』(フジテレビ)を筆頭に、『ダブルス 二人の刑事』『遺留捜査』『刑事110キロ』(テレ朝)、『確証〜警視庁捜査3課』『潜入探偵トカゲ』(TBS)……と、各局はまるでなんとかのひとつ覚えのように、数多くの刑事ドラマ(か、それに類する推理モノ)を放送した。

 だが、フィクションの世界ではこれほどまでに刑事たちの活躍がヒロイックに描かれているにもかかわらず、それを享受してきた側であるわれわれが、現場の第一線で働く“本物”の刑事の仕事ぶりを知る機会はほとんどない。大多数の一般人にとっては、すごく身近なようでいて、実は多くが謎に包まれた存在、それが刑事という人種だといっても過言ではないだろう。

 そこで今回は、朝日新聞・神奈川県版の朝刊で連載していたその回顧録がこのほど、単行本『刑事の結界 叩き上げ警部補・島田伸一の事件簿』(朝日新聞出版)として刊行された神奈川県警の元警部補・島田伸一氏にインタビュー。40年もの長きにわたって刑事畑一筋に汗を流し続けた、刑事と書いて(デカ)と読む“本物”の実像に迫ってみたい――。

――一冊の単行本としてまとめられた数々の事件をご自身で振り返ったとき、真っ先に思いだす印象深い出来事というのはありますか?

島田:すべてが思い出深いですけど、強いて挙げるとすれば、同じ警官が撃たれて自分の目の前に飛びだしてきた横浜の立てこもり事件(90年 横浜・拳銃民家立てこもり事件)や、逮捕した犯人が死刑になった川崎の事件(99年 川崎・中国人集団強盗殺人事件)。この2つについては、いまだにそのときの光景が鮮明に焼きついています。いくら捜査一課が、新聞に載るような大きい事件、ヘンな言い方をすれば“派手”な事件を扱う部署といっても、あれほど衝撃的な事件を直接扱うということは、そうあることじゃありませんしね。

――読む側からすると、まさに“事実は小説よりも奇なり”で、どれも興味深いものばかりだったわけですが、やはり文章と現実というのもまた違うものですか?

島田:やっぱりもっと生々しい部分はありますよ。よく“血の海”という表現をしますけど、川崎の事件なんかは、あたりに鉄の匂いが立ち込める本当にその通りの現場でしたし、「血ってこんなにも飛ぶのか」と思うような現場もあった。その凄惨さに、最初は誰でも震えるものです。

――よく聞く「焼死体を見たあとに焼肉が食えたら一人前」などというのは、実際にも?

島田:先輩の中にも、そういうことをおっしゃる方はいましたね。ただ、ある意味では、そうやって鈍感になっていくことも刑事としては必要なこと。現場でイチイチ驚いていては正常な判断はできませんし、捜査にも支障が出てしまいますからね。とはいえ、私自身も初めて解剖を見た後は、なんとなく脳みそを思い出してしまって、いちごジュースが飲めなかった。刑事である以上、死体と向き合うことは避けては通れませんし、おそらくそういったことはほとんどの人が経験していると思います。

――ところで、本の中では本庁捜査一課への転属を、当初は拒否されていた描写がありますよね。それはどうしてまた? 

島田:もちろん所轄から本部に行くことが、われわれノンキャリアにとってはいわば頂点でもありますから、そういうところに行って仕事ができたというのは、私自身の誇りです。ただ、一課の刑事というのは、とてもおもしろくて、鳥肌が立つような現場というものも数多く経験できる半面、ものすごくハードでほとんど家にも帰れない。日付が変わるような時間に帰って、妻に「あら、今日はずいぶん早いわね」なんて、普通の家庭だったらまず言われませんよね。しかも、私が呼ばれたころというのは、神奈川県内でもかなり事件が多くて、臨時の中隊まで作られていたほどだった。帳場(捜査本部)に入ってきた一課の面々が、そうやって私生活を犠牲にしている光景を目の当たりにしていた私としては、どうしても躊躇する部分があったんです。

――男としてはやりたい。でも、夫・親の立場からすると……せめぎ合いですね。