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Surface RT値下げから透ける誤算 チグハグな販売戦略、増えないアプリ…

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「日本マイクロソフト HP」より
 日本マイクロソフト(日本MS)は、6月14日からMS製タブレット・Surface RTの本体価格を、全モデル一律1万円の値下げをした。値下げは7月14日までの期間限定。競合するアップルが5月31日、同社製タブレット・iPadを値上げしたのを機に、一気に攻勢をかけるのが狙いと見られている。


 6月13日、日本MSの東京・品川本社で記者発表をした樋口泰行社長は「Surface RTは(アップルの)iPad miniより3000円も安いアグレッシブな価格に設定した。これを機に、iPad購入をためらっている方にSurface RTの魅力を訴求したい」と、突然の値下げの理由を説明した。

 樋口社長の説明を聞いた記者の一人は、「RTは発売から3カ月で早くも投げ売りに追い込まれたか」と、複雑な思いだったと語る。

 Surface RTはワード、エクセルなどのMS純正ソフトを標準搭載し、着脱式のキーボードが使えるのが特徴。米MSがパソコンメーカーへOSを供給する長年の「水平分業モデル」から転換、MS自身がハードウェアも自社開発する「垂直統合モデル」を採用したことでも話題になった。

 Surface RTは昨年10月、まず欧米や中国などで先行発売され、日本MSが今年3月15日、海外より半年遅れで国内発売した。だが、連休明けから業界関係者の間で「消費者が見向きもしない」と囁かれていた。

 IT市場の調査関係者は「国内のタブレット市場は、iPad(アップル)とNexus 7(グーグル)の2機種だけで80%近いシェアを占める寡占状態。3位のソニーがやっと5%程度で、残り約15%を10社近いメーカーが分け合っている。目立った魅力のないRTが、鳴かず飛ばずに終わるのも当然」と言い切る。

業界関係者の一人も「日本MSが言うように売れているのなら、電車内や喫茶店でRTを使っている人がいるはずだが、そんなシーンを見たことがない」と話す。

●OS開発の遅れが、対応アプリ増えない原因に

 前出の関係者は「Surface RTの不振は、誰が見ても明らか。要因は、米MSが新たに持ち出した販売システムの失敗にある」と指摘する。

 Surface RTが採用しているOSはWindows RT。これはインテルと異なる英アーム系CPUで動作するようにWindows 8を改変したOS。当初の設計ではWindows向け既存アプリが動作する仕様だったが開発が難航、結局時間切れでソフトメーカー各社がWindows RT向けアプリを開発する仕様に急遽設計変更した、いわくつきのOSだ。

 そのWindows RT対応アプリの開発が遅れている。業務用ソフトはもちろん、画像編集ソフト、年賀状作成ソフト、家計簿ソフトなど個人向け主要アプリの大半が、開発予定さえ立っていないという。

 日本国内で流通しているiPadアプリは30万本を超えると言われているのに比べ、Windows RTのアプリは今年4月末時点でも2万本程度と見られている。つまり、iPadと比べ、「Surface RT向けアプリは、見るべきものがほとんどない」(家電量販店関係者)のが実情のようだ。

 開発遅れの要因は、アプリの販売法にあるといわれる。通常のWindows 8対応アプリは、ソフトメーカーが自由に開発して販売できる。しかし、RTの場合はMSが運営している通販サイト・Windows Storeからしか購入できない。なぜなら、こちらはMSの垂直統合モデル製品だからだ。

 このため、ソフトメーカーは家電量販店でのパッケージ販売や自社サイトでのダウンロード販売など、従来の販売チャネルを活用できず、Windows Storeに販売を委託しなければならない。さらにMSには売上高の20〜30%の販売手数料も徴収される。これではソフトメーカーのメリットがほとんどない。したがってRT向けアプリ開発は後回しになるというわけだ。

 自社通販サイト以外のアプリ販売を認めないのは、アップルも同様だ。しかもアップルはアプリの事前審査が厳格なため、ソフトメーカー側の不満が強い。それでもアップルに従っているのは、それなりのメリットがあるからだ。

 アップルの場合は自社通販サイトにおいて、携帯音楽プレーヤー・iPodと同プレーヤー向け音楽配信サービスでユーザの支持を得た上で、そのシステムをiPadのアプリ販売に拡張している。

 そこには「販売すれば必ず一定量以上は売れる顧客基盤があるので、事前審査が厳格でも、手数料を取られても、ソフトメーカーはアップルの販売システムに乗るメリットがある」(前出の業界関係者)というわけだ。一方、実績のないMSには、そうしたメリットがない。

●日本MSのジレンマ

 Surface RTはiPad対抗機と謳われる割には、発売当初から日本MSの販促にアクセルとブレーキを同時に踏んでいるようなチグハグさが目立った。同社関係者は「樋口社長には、販売に自信がないというか、及び腰の雰囲気が感じられた」と打ち明ける。

 そこには、日本MSが置かれている複雑な立ち位置があったようだ。昨年6月、米MSがSurfaceを発表して以来、国内パソコン業界では「Surface脅威論」が広がった。5万円を切る価格でMSからタブレットを販売されれば、Windows 8の投入を機に不振のパソコン販売を盛り返そうともくろんでいた業界は、そのタブレットで足元をすくわれるからだ。

 業界のそうした不安を肌で感じられる位置にあった日本MSは、Surface RTの国内発売に当たって、業界に最大限の配慮をせざるを得なかった。

 まずは発売時期。クリスマス商戦に向けた昨年10月の世界同時発売を日本MSは見送り、春商戦に向けた今年3月まで遅らせた。
 
 次に販売ルート。販売はヤマダ電機、ヨドバシカメラ、ビックカメラの家電量販大手3社の約1000店(5月からエディオンとケーズデンキを加えた1500店に拡大)と自社ネット通販に限定した。

 さらに、発売機種もRT1機種4モデルに限定した。Windows 8をそのままOSに採用した「Surface Pro」(RTの上位機)は、国内パソコン業界とモロに競合するとの判断から投入を先送り(今年6月7日に発売)した。こうした配慮で「日本MSは今後も業界と共存共栄してゆく」との姿勢を示した。

 今年3月1日のSurface RT発売発表の席上でも、樋口社長は「当社はパソコンで長らくハードメーカーと協業し、ソフトに特化してきた。この路線は今後も変わらない。Windows陣営をさらに盛り上げるため、パソコンのバリエーションの1つとしてタブレットを発売する」と強調した。