共に高齢者の認知症に焦点を当てた番組だが、認知症の家族を「在宅」で介護する時、どんなことが起こるのか。老々介護や、1人暮らしで認知症になった高齢者の“放置”の実態とは――。認知症患者は、推定462万人、予備軍も400万人ともいわれ、多くの人々にとって避けて通れない切実な問題だからこその反響だったのだろう。
誰にとっても他人事ではない認知症。高齢化社会に向かい、認知症や介護に注目が集まる中、認知症に関し衝撃的な説を唱える書籍が刊行された。それが認知症専門医・長谷川嘉哉氏による『公務員はなぜ認知症になりやすいのか』(幻冬舎)だ。
不況が続く中、今や最も安定した憧れの職業とさえ称される公務員だが、その公務員が認知症になりやすいとは、一体どういうことか。
同書によると、その前提条件として、こんな“事実”があるという。
「認知症は記憶を司る『海馬』が萎縮するために起こるが、最近になって感情を司る『扁桃核』の衰えも発症に大きく関わっていることがわかってきた」という。そこで大切なのが、扁桃核=感情を刺激する生き方だ。
そのためには、不快に感じることを、考え方や行動によって快に変えていくことが、扁桃核を刺激し、認知症の予防につながるらしい。したがって「認知症になるか、ならないかの分かれ道は40代以降、扁桃核に刺激を与えてきたかどうか」が重要となるのだ。
マンネリな生活を送っていると、認知症の危険
そこで本題の公務員である。
同書によると「マンネリで変化を好まない公務員」は扁桃核を刺激しない頭の使い方の人が多く、そのため認知症になりやすいという意味で、かなり危ない職業なのだという。
著者の長谷川氏は、自身の経験も交えてそれを解説する。
年間50回ほどの講演を行う著者だが、主催者が民間か公的機関かで、対応の“差”があるという。「民間企業が主催の場合は、講演会場で(著者の)本の販売をさせてもらう」。しかし公的機関の場合、販売させてもらえないことが多々あるのだという。理由は「規則で決まっている」「上司に確認したがダメだった」というお決まりの文言だ。柔軟性がなく、前例主義で、聴衆の希望に応えるという意思すら持たない公務員は「価値観が凝り固まっている」。
「公務員で大切なのは前例があるかないか、マニュアルから外れていないかであり、個人的な判断で結論が出せません」「組織の論理を優先して淡々と仕事をこなせる人のほうが、出世も早い世界です」。よって「自らの判断で新たな方法や対応策を生み出す思考・行動が必要とされていない」し、「狭い価値観だけで仕事をする」のだ。
こうした柔軟性のなさは、凝り固まった価値観を生み、「扁桃核」をうまく刺激できなくなる。だから公務員の思考、行動は「脳の働きからいっても認知症の危険因子」となるのだという。
脳に刺激を与え続ける生活が必要
公務員は「お役所仕事」と揶揄されるように、決まった内容を繰り返すだけで、新しいことはせず、柔軟性がなく、発想力に乏しい、といった人も多いのではないだろうか? そのような仕事や職場環境に長年身を置いた人は、日々ルーティンワークばかりで生活に刺激もなく、マンネリに陥りやすく、認知症になりやすいというわけだ。
もちろんそれだけでなく、運動不足、遺伝子、食生活、飲酒や喫煙などの生活習慣、環境の激変なども認知症の要因ではあるが、しかし「公務員は認知症になりやすい」というのもまた、認知症の現場ではひとつの定説だという。
脳はいつでも刺激を求めている。その刺激こそが認知症予防法なのだ。
「好きな趣味を持つ、お金の管理は自分でする、積極的に人の集まりに参加する」
年を取っても多くのことに興味を持ち、物事には柔軟に対処し、気持ちは前向きに――。簡単な気持ちの持ちようだが、脱公務員的な生き方こそが、認知症予防の第一歩のようだ。
(文=編集部)