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日ハム、なぜ優勝でも客数減?ファンの“無言の抗議”というジレンマ、今期迎える正念場

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北海道日本ハムファイターズ HP」より

「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数あるジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。

 いよいよ開幕したプロ野球。昨期、最下位に沈んだ北海道日本ハムファイターズ(日ハム)にとって、今期はチーム成績をはじめ、いろいろな意味で正念場だ。本拠地を北の大地に移して10年。日ハムという「ヒット商品」がロングセラー商品に化けることができるか、真価が問われるシーズンとなる。

 日ハムの球団フロントにとって気になるデータがある。

 直近5シーズンの年度別チーム成績と、ホームゲーム(72試合)における合計観客動員数および1試合当たりの観客動員数だ。

・2009年(優勝)……199万2172人(1試合平均2万7669人)
・10年(4位)……194万5944人(1試合平均2万7027人)
・11年(2位)……199万338人(1試合平均2万7644人)
・12年(優勝)……185万8524人(1試合平均2万5813人)
・13年(最下位)……185万5655人(1試合平均2万5773人)

 北海道に本拠地を移転した04年以来、チーム成績という結果に加えて、地道なファンサービスも功を奏し、本拠地が東京だった時代(移転前年の03年は131万9000人)に比べて大幅に観客数を伸ばし、一時は200万人に迫った。これは年度によって300万人を超えるセ・リーグの巨人や阪神は別格として、パ・リーグでは福岡ソフトバンクホークス(13年は240万人超)に次ぐ数字だ。

●優勝しても減ってしまう本拠地の観客数

 だが、近年は数字を落としている。

 本拠地における観客動員数の減少とは、チケットを買って主催試合(主に札幌ドーム。数試合は旭川や函館の球場)に足を運ぶ顧客が減っていることを意味する。

 最下位に終わった昨期は、成績の割に数字は健闘したといえようが、これは高卒ルーキーの大谷翔平が投手と野手の「二刀流」として大きく注目された面も大きい。球団にとってショックなのは、リーグ優勝しながら前年よりも13万人以上減少した12年のシーズンだ。

 北海道移転後のファイターズのチーム戦略は明確だった。

 プロスポーツチームとしては理想的な「スカウティングと育成で勝つ」という手法だ。さほど注目されていないアマチュアの中から有望な選手を探し出し、プロ入団後に才能を伸ばす育成を推し進めた。

 例えば、現在は主力投手となった武田久、武田勝は、ともに社会人を経てドラフト4位で入団。野手でも金子誠(同3位)、小谷野栄一(同5位)らは、鳴り物入りで入団したわけではない。一方でダルビッシュ有(現米大リーグ、テキサス・レンジャーズ)や、中田翔、斎藤佑樹、大谷翔平といった、甲子園を沸かせた人気選手をドラフト1位で獲得してきた。

 大学野球にたとえると、エリート的な東京六大学型、雑草的な東都大学型を使い分け、選手を競わせながらチーム力の向上を図ったわけだ。

 これらの主力選手を中心に、広い札幌ドームに合った、投手力と機動力を前面に押し出した野球で好成績を挙げてきた。

 それが、支持されなくなった理由はなぜか。

●生え抜き選手の放出で、「無言の抗議」?

 前回記事『プロ野球・日ハム、なぜ「ヒット商品」に?「新商品」としての売り出しと、球団の体質改善』で、本拠地移転後、特に中高年女性に支持されたと紹介した。熱心なファンの中には、札幌ドームで試合がある日に、レプリカのユニフォームを着て、地下鉄・東豊線(札幌ドームの最寄り駅は福住駅)に乗る姿を見かけたほどだ。都内で熱狂的な巨人ファンの中高年女性が、ユニフォーム姿で地下鉄・丸の内線(東京ドームの最寄り駅は後楽園)に乗車する姿を想像していただくと、その熱烈ぶりがイメージできるだろう。

 試合だけではなく、シーズン前のキャンプ地を訪問したり、二軍のある千葉県鎌ケ谷市の「ファイターズタウン」に行って激励する女性客もいた。こちらはまだ無名の選手を、まるで息子や親戚のように応援するという。

 だが一方で、プロ野球球団は営利企業だ。現実的な球団運営をしていかなければならない。日ハムという球団を一般企業にたとえれば、球団オーナーがCEO(最高経営責任者)、球団社長がCOO(最高業務執行責任者)だ。COOの役割は時に球団代表が担い、選手の獲得やチーム戦略は、編成本部長以下の編成部門が一手に任せられている。

 以上は実際の役職だが、監督は営業本部長、打撃コーチや投手コーチ、守備・走塁コーチは担当部長、選手は成果報酬型の営業マン――として考えるとわかりやすい。実績に応じて年棒が上がり、成績不振だと下がる。もちろん好成績を挙げてきた人気選手は発言力があるが、立場上はプロ契約(業務委託契約)の個人事業者である。

 営利企業である以上、球団は収入と支出に目を光らせる。親会社の広告料に委ねる部分もあるが、入場料や公式グッズの販売収入など、ファンサービスによる売り上げ拡大も図る。

 他の業種に比べて、プロスポーツチームは選手の総人件費比率が極めて高いのだが、収入が伸び悩む場合、選手の人件費は青天井で上げにくい。「価値」(現在と今後の活躍)と「価格」(年棒)とのバランスを重視する。

 こうした前提に基づき、近年のファイターズを見ると、主力選手の流出が相次いでいるのが目立つ。ポスティング制度で米大リーグに移籍したダルビッシュはよく知られているが、田中賢介も退団して大リーグに挑戦し、糸井嘉男はオリックス・バファローズにトレードされた。個性的なパフォーマンスでファンを楽しませた森本稀哲もフリーエージェント(FA)で横浜DeNAベイスターズへ移った(現在は埼玉西武ライオンズ)。

 特に12年の優勝した年に、生え抜き主力選手である田中(00年入団)と糸井(07年入団)の2人が退団したことは、一部のファン離れを招いた。ファンが球場に足を運ばなくなったのは、チームの魅力低下もさることながら、球団に対する無言の抗議という側面もあるのかもしれない。

●「ファンサービス・ファースト」とどう向き合うか

 北海道移転後の日ハムの総人件費(球団総年棒)は、12球団の中で高いほうではない。コストを抑えながら、優勝争いにからむチームをつくり上げてきたといえる。昔と違って、大リーグに行く選手も増えた現在、2~3年活躍すると年棒は一気に上がる。だからこそ、昨シーズン最下位に終わり、多くの主力選手が不振だったことは、経営視点では堂々と年棒を下げられ、好都合だったといえる。

 それでもプロ野球は、応援するファンに夢を売り、明日への活力をもたらす存在だ。ファンは、合理的に経営して脂の乗り切った主力選手の放出も辞さないようなドライなチームを見たいわけではない。

 それは球団も承知しているからこそ、行動指針を「ファンサービス・ファースト」としている。

 今年も二刀流に挑む大谷翔平、故障からの復帰を期す斎藤佑樹、昨期は負傷で本塁打王の座を棒に振った中田翔といった若手・中堅選手や、昨年不振だった稲葉篤紀らベテラン選手の奮起で、この10年間そうだったように下位に低迷した翌年に優勝争いをすることができるか。

「話題性」を提供しながら、日ハムという商品の質を高めていかなければ、次の10年はない。かつての人気商品が凋落して「そういえば、そんな商品あったね」といわれてしまうケースはビジネス社会にはいくらでもある。
 
 以前、球団幹部は筆者に「最大のファンサービスは勝つことです」と話した。その通りだろう。そして「勝つ」の前に「楽しませて」が付けば、さらにファンは球場に足を運んでくれるはずだ。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト)

高井 尚之(たかい・なおゆき/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント) 
1962年生まれ。(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。『セシルマクビー 感性の方程式』(日本実業出版社)、『「解」は己の中にあり』(講談社)ほか、著書多数。